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「経済全般(格差等)」編 印刷 Eメール

2007年参議院選挙 有識者の評価/「経済全般(格差等)」編

湯元健治(日本総合研究所調査部長)
ゆもと・けんじ
profile
1957年福井県生まれ。京都大学経済学部卒業後、92年日本総合研究所調査部主任研究員、98年経済戦略会議事務局主任調査官、2002年日本総合研究所調査部経済・社会政策研究センター所長兼主席研究員を経て、04年から現職。『税制改革のグランドデザイン』(編著、生産性出版、03年)など。

イノベーションを起こすのは人の知恵や発想

 安倍政権の経済政策は、簡単にいえば、人口減少が予想される中で、もっと経済成長を高めないと、国民が嫌がる消費税を上げなくてはならなくなるということが認識のベースになっています。当然、歳出削減や構造改革は、小泉さんのときと同じか、それ以上のペースで頑張りますと言っているわけです。

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 小泉政権は、景気回復を持続させて成長させていけば、回復が遅れている中小企業や地域も、いずれ追いついてくるという考え方でした。財政のばら撒きは全くせずに、個別の生産性を極めたり、成長力を高めたり、政策を積み重ねていけば、経済成長が長続きして、その成果配分は、いわゆる弱者といわれる人たちにも行くであろうという考え方の下に一貫してやってきたと思います。ですから、どんなに地域の経済が厳しくなっても公共事業のカットを貫きました。安倍政権になってから、そういう一応理屈の上での考え方と現実との間にギャップが少し出てきたということです。

 所得格差の拡大も目立ってきていますが、これはもともと小泉政権のときは、上の方の格差が拡大して、頑張ってチャレンジして成功する人が増えるのならばいいのではないかと国民も賛同していたはずです。ただ、この足元の格差云々というのは、下の方も開いてきています。ニートやフリーターが出てきて、20歳代後半や30代に差しかかっています。小泉政権の終盤にかけてそのあたりが出てきたわけです。

グローバル化の恩恵及ばぬ中小企業

 また、中小企業でも足元で格差が、今年に入ってから拡大し始めています。93年、99年、2002年以降の回復局面で大企業、中堅・中小企業を比較すると、利益回復ペースというのは、過去二回はほぼ同じか、中小企業の方が高いという感じです。しかし、2002年以降は、大企業製造業を中心に、大企業は非常にハイペースで回復していますが、中堅・中小企業はここ半年、一年は足踏み、若干下がるような感じも出てきています。

 これはすべて政策のせいかというとそういうことではなくて、基本的にグローバル化に適応できる大企業製造業は輸出も増えるし、中国などで現地生産を増やして、そこから収益を稼ぎ出すなどで回復します。しかし、中小企業は内需に依存した企業がほとんどですから、国内の需要が上向いてこないと良くならないのです。中小の製造業は大企業が良くなった影響で、ある程度設備投資を始めています。例えば機械化設備だとか、部品関係に少し恩恵が及んでいます。恩恵がほとんど及んでいないのは中小の非製造業です。

二極化は、理屈の上では経済回復が進んでいけば均霑(きんてん)するはずですが、それが進まない最大の理由は、まさに利益配分の問題です。大企業の利益が上がったときに、それが賃金や雇用にうまく配分されれば、当然、消費も拡大し、中小企業に恩恵があります。これは理屈の上での理想的展開です。それが少しずつは進んでいますが、そのペースがあまりにも遅い。去年はむしろ足踏みしています。今年に入って少し良くなってきましたが。

 企業から家計への利益配分のペースがものすごく緩やかになっています。これは株主、資本主義がどんどん強まってきていることが背景にあります。外国人投資家のウエートを平均的に見ても、もう3割近くに上がってきています。しかも、四半期決算が導入されて、四半期ごとに経営者は利益の状況をチェックされます。こういう状態は一昔前に比べると大きな違いです。M&Aが活発化して、敵対的TOBまで行われるような状況になって、経営者も非常に警戒的になっています。

 グローバル経済が拡大しているので、その恩恵を受けて何とか史上最高益を更新し続けられていますが、いつまで続くかわかりません。そうなると、経営者は安易に人件費を増やすというスタンスになかなか向いていけないと思います。どんなに利益が増えても、その成果配分は、将来のための投資と株主への利益還元、配当の増加や自社株買い、あるいは内部留保の積み増しを優先します。大企業ですらそうですから、ましてや中堅・中小企業はそうなってしまいます。

 家計全体として見たときに、雇用者の所得の伸びは1%ぐらいです。雇用者報酬が260数兆円あるので、1%伸びるというのは所得が2兆~3兆円増えるという感じですが、定率減税を廃止すると、国と地方を合わせて2年間で3兆3000億円増税になります。所得の増えるペースと比べれば、家計の負担増のペースはやや大きい感じです。

 もちろん配当が増えたり、株が値上がりしたりして、キャピタルゲインが増えていますから、そうした金融資産を多く持っている層には、所得が多く還元されています。日本はものすごく活気づいてきたというイメージがありますが、それは東京の一部の話なのです。全国的に見るとまだまだ厳しいところがたくさんあります。

 これは、政権が好んでそういう状態にしたということではありません。グローバル化の圧力が強まっているということのあかしなので、安倍政権が成長をさらに上げる必要があるという考え方は正しいのですが、強いところをもっと強くして国際競争に勝ち抜いていけば、弱いところにも恩恵が及ぶという前提が正しかったのかという疑問を抱かざるを得ない状況になってきています。


それからもう一つ、現実に中長期的に、企業経営者がなぜそこまで慎重になって家計への配分を優先しないスタンスを続けるかというと、特に人口減少が現実に始まると、国内マーケットが縮小していく一方であることが挙げられます。外に出ていける企業はどんどん中国などへ進出していけますが、小規模企業に中国へ行けと言っても大半は難しい。以前のような成長が戻ってきて、昔のように恩恵が及んでくると期待している人はあまりいません。

そういう中で、構造改革がこうしたばらつきや、格差、地域の疲弊の問題を結果的に拡大した面があります。だからといって、構造改革をやるべきではなかったと言うつもりは全くありませんが、明らかに、地域の中で弱いところは、もともと公共事業の比率が高かったところで、かつ大企業の進出がないところなのです。

 小泉さんは自分の任期中は消費税を上げないと言ってきたので、それは次の安倍政権にバトンタッチされました。しかし、まだまだ恩恵が弱いところに及ばない段階で、消費税を上げるようなことを検討し始めないといけないような局面にも差しかかってきました。しかし、実際の経済状況はそこまで強いかどうかまだわかりません。国民の賛同を得られるほどに政府を効率化してきちんと行ったのかというと、まだまだやるべきことは多い。

 安倍政権は、構造改革を進め、経済成長を高めようとしていますが、その一方で、改革の成果が十分出ない段階で改革のひずみという問題に直面しているわけです。

 成長戦略というときに、どの程度の成長を目指すべきかというのは、安倍さん自身も数字を出していますし、目標もそのように掲げているので明快です。財政との絡みでいえば、2011年のプライマリーバランス、黒字化目標があって、骨太方針2006で定められた歳出削減をきちんとやるかどうかも問われています。仮にこれをきちんとやるにしても、消費税換算1~2%程度の財源不足があります。安倍政権は、1~2%の消費税引き上には、そう簡単に国民の納得を得られないだろうから、経済成長のペースを高めようとしているわけです。

楽観論は禁物

 本年度の予算編成では、国税の税収が7兆6000億円ぐらい増加しました。そのほとんど9割を赤字財政再建に充てているので、プライマリー赤字が急激に縮小する形になっています。ひょっとして消費税を1~2%上げなくても、プライマリーバランスを2011年で黒字化できるのではという期待が非常に高まっている状況だろうと思います。

 ただ、もっと先を展望すれば、医療や介護などのコストが膨らんでくるのは間違いないので、プライマリーバランスを黒字化できたら、それで安心という話ではありません。その次の債務残高GDP比引き下げという目標はハードルが高い。財政制度等審議会などで議論しているのは2010年代半ばの達成が目標とされています。

 しかも、80年代以降の金利自由化以降の世界的な金利と経済成長率の乖離を見ると、金利の方が少なくとも1%以上は高い。仮にプライマリーバランスの黒字を2%とすると、GDPの2%ですから、現在価格で10兆円です。これは現在の消費税率換算で4%分の引き上げに相当します。したがって、もっと経済成長を高めていかないと、最終的には国民にかなり大幅な消費税の引き上げを求めないといけなくなるのですが、国民の理解や納得が得られるような状況にはなっていないと思います。

 安倍さんの成長戦略における成長率は、四つあるシミュレーションのうち一番うまくいったケース、つまり、歳出削減を一番たくさんやって、一番順調に成長も拡大していくケースですが、2011年度の名目経済成長率が4%近い数字になっています。ほかの試算でも4%前後になっています。今、足元の2006年度実績の名目経済成長率がまだ1.3%ぐらいなので、あと5年ぐらいのうちに4%近くまで持っていくというのは相当至難のわざです。

 一時、少しインフレ率を高めて、日銀に金融緩和を長期化させて、物価上昇率を高めるという発想もありましたが、インフレにするというのは、長期的に見ると必ずマイナスになります。ですから、イノベーションとオープンというのは、考え方としては非常に正しい。生産性を飛躍的に引き上げるということと、それだけでは足りないので、外のリソースを使うという話です。アジア・ゲートウェイ構想はどこまで評価し得るに足る具体的内容がそろっているかという問題はありますが、考え方としては、アジアの高成長を取り込んで、ヒト、モノ、カネを日本に売りつける、呼び込むというのは正しい。これは、まさに遅れている地域の活性化をする上でも非常に重要な手段です。


 成長とゆがみの是正と、これまでの改革継続と、それぞれ相互に矛盾するところがあるにもかかわらず、その3つをバランスよくやらないといけないというのが、安倍政権に課された課題です。今回の改革は、小泉さん的改革が停滞する兆しが出てくると、改革がストップしているのではないかという批判を浴びるし、それを推し進めようとすると、ゆがみや弱者に配慮していないのではないかという批判が出ますし、では、成長によってそれをカバーしようとすると、ばら撒き予算になるのではないかという批判が出ます。この3つをバランスよくやろうとすると、何をやっても批判されてしまうような宿命もあります。

 今の局面は、民間の知恵や発想を生かしながら構造改革を進めなくてはならないという点においては小泉さんのときと全く同じです。しかし、弱者や格差の問題をもう少しうまく是正できるようなことを考えながら前に進むということになると、多分それは企業経営者の考えることではないと思います。弱者などの新たな問題は、政治もかかわってこないといけません。あと個別の細かい施策でも、相当きめ細かなものが要求されてきます。 

イノベーションを起こすのは人の知恵や発想

 イノベーションは、基本的には民間がやるべきものです。ですから、政府が何か知恵を使ったり、多少金を出したりするとイノベーションが起きてくると考えることの方が根底から危ういです。イノベーションを起こすのは人です、人の知恵や発想です。人に対して優しくないシステムだったら、知恵や発想は出てきません。小泉さんの時代に民間企業が危機を乗り切ったのは、働いている人自身が危機感を持って努力したからです。

 再チャレンジは、落ちこぼれた人を救うという狭い話ではなく、全員のことを言っているのです。上の2割ぐらいの人はいいかもしれないけれども、残り8割の人もやる気が出て、新しい発想が生まれ、それが企業のいろいろな新商品とかサービスの開発につながって、好循環で企業の利益につながっていく、そういうメカニズムをつくる必要があります。これは政府自身の政策の問題もありますが、やはり企業経営の問題そのものだと思うのです。日本には人材がいないし、明らかに人が不足してきているのですから。

 教育も、学校教育の問題はひずみの問題としていじめとかなんとかがあるのでしょうが、それとは別に、プロフェッショナルな人材をどうやって育てていくかというところに焦点を当てて、それに対する戦略的な目標なり政策を打ち出さないといけない。

 ふるさと納税などの政策が政治サイドから出てきて、そのまま骨太の方針に受け継がれ、政策として検討しようとしていますが、本質論なのかどうか。調整するとしたら、いったいどの程度まで調整するのが正しい姿か、答えを出せる人はいるのですかということです。少なくとも、あの交付税の仕組みだと、東京ひとり勝ち状態を均霑させることはできないということが、やるべきことの本質かもしれません。

 最低賃金の見直しは、政府が一律にもっと上げろと強制できる話ではなくて、民間の経営の問題として本来考えていかないといけない問題です。人材が完全に不足する時代に入っているので、最低賃金以下のところで働く人はいなくなるでしょう。ですから、法律をつくって無理やり強制しなくても、時代が昔と変わってきています。パートの時給や派遣料金、正規採用の初任給も若干上がり始めています。ただ、法律上、最低賃金が生活保護よりも低いというアンバランスな状態が放置されていること自体は好ましくない。政府に対する信頼性や将来に対する安心感を考えると、その問題が意図的に放置されているとしたら、政策としてはまずいでしょう。

 日本が二大政党制を目指す上で、ある政権の政策が経済活力を強め経済をどん底からはい上がらせることに一定程度成功したが、ゆがみも出てきているというのなら、それと全く逆の対立軸が本来出てきて行き過ぎが是正されるのが正しい民主主義だと思います。今の自民党は右から左までのメニューを全部並べる。野党についても同じことがいえるわけです。民主党も改革、改革と言っていますが、その内容において微妙な差はありますが、根本的に大きな差があるわけではありません。

 安倍政権になって少し変わってきたのは、社会保障の医療について、効率化はもちろん考えていますが、これ以上ぎりぎりと抑制していく発想が消えたことです。そうであれば、財源について国民に説明して負担を求めていく必要があるでしょう。

 多分、過去のマニフェスト選挙を2回やった政治側の感想を聞けば、総合的、体系的、戦略的な政策をきちんと説明し、それで理解を得て選挙をしようと思ってやってきたけれど、結局、わかりやすい単純なものが勝ち負けを決定するということでしょう。今回、それぞれ政策は入っていると思いますが、意識が年金の問題だとか、国民の生活に直結した個別の細かい政策を、できるだけわかりやすく入れようという感じに変質してきています。ですから、3回目のマニフェスト選挙だというのに、内容が改善しているというよりは後退している感じになっています。


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