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安倍政権実績評価(憲法改正・国民投票法) 印刷 Eメール

憲法改正・国民投票法

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言論NPOでは、これまでに安倍政権が行った政策の実績評価をしました。

   
 
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1.評価の視点

この分野の評価に当たっては、以下の視点を評価のポイントとします。

ア) 日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をやる国(あるいは何をやらない国)になるのか、について、明確に提示しているか。

イ) それを実現する上で、憲法の問題点や見直しの方向性など、国民が改憲の必要性について判断できる材料を提供しているか。

ウ) 議論の手続き自体の政治的中立性、不偏不党性が確保されているか。

●日本国憲法(昭和21(1946)年11月3日 公布、昭和22(1947)年5月3日 施行)

・第九十六条【憲法改正の手続】
1 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

・第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 日本国憲法が施行されて60年を経た2007年に、憲法改正手続きを定めた国民投票法案が成立しました。本来であれば施行と同時に作られているは ずであった法律が60年の歳月を経てようやく日の目を見ることになり、これで憲法改正論議が具体論へと軸足を移すかどうかが注目されています。

 日本国憲法は行政権を含む三権を規律する最高法規であり、国民と国家の関係そのものを規定する根本規範です。憲法制定権はあくまで日本国民全体に 属するのであり、その大多数の合意が形成された範囲内でのみ粛々と改正されるべきものであると考えれば、改憲議論は公正中立的に不偏不党な手続きでなさ れ、超党派間での議論をと合意を経て国民のコンセンサスを得ていくプロセスを通じて行われるべきものといえます。こうした意味で、日本国憲法は改憲への ハードルを高いものとした「硬性憲法」とされます。従って、憲法改正という分野については、マニフェストサイクルの中で議会で多数を得た政党がそこに提示 した政策を実施し、それを次の選挙で国民が判断するといった、通常の政策形成手続には馴染まない面があります。

 その中にあって、憲法の見直しを国民的議論として盛り上げていくためには、まずは国会における政党間での意味のある議論を行う前提として、政党自 身が、自らの考える日本のあるべき姿を提示し、それに向けて、憲法をどのように改正していくのかについてのビジョンを提示しなければ、見直し論議は具体的 に進展しないという面があります。その意味では、国民の支持を受けた適切な改憲を目指す政党が政権を得て、改正へ向けた国民運動のリーダーシップをとるこ とは、立憲民主主義として必要な手続きであるといえます。

 以上を踏まえれば、政党が改憲を提起するのであれば、次の基準を満たしているかどうかが問われることになります。

[ 基準(ア) ]まず、日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をやる国(あるいは何をやらない国)になるのか、政党としての考え方を明示すること。

[ 基準(イ) ]次に、それを実現する上で、憲法のどこが問題で、どのような方向で見直さなければならないかを示し、国民が改憲の必要性について判断できる材料を提供すること。

[ 基準(ウ) ]議論の手続き自体の政治的中立性、不偏不党性を確保すること。

例えば、憲法9条については、(ア)の国際社会で日本がすべきことは何か、すべきでないことは何かを政治が国民に示して答を求め、その答に従って、改憲 すべきかどうかを判断するものであり、それが明確でないまま9条改正を示すのであれば、(ア)と(イ)の手順は逆になってしまいます。それは、(ウ)のク ライテリアにも反するといえます。9条改正によって認められることになるのが集団的自衛権の行使であれば、(ア)の答がないままでは、中国や韓国だけでな く、アメリカや東南アジアなども含め世界から疑いの目を向けられるでしょう。憲法を書き直すのであれば、日本が何をやるために書き直すのかを明確に示さな ければなりません。

 安倍総理は、本年の憲法記念日の談話で、「戦後レジームを原点にさかのぼって大胆に見直し、新しい日本の姿の実現に向けて憲法について議論を深め ることは、新しい時代を切り開いていく精神へとつながる」として改憲に強い意欲を示し、参院選マニフェストには新憲法制定を第一番に掲げました。安倍総理 は、自民党が2005年にまとめた「新憲法草案」を基に国民的議論を展開していきたいとしています。

以下、憲法改正についての安倍政権の一連の動きについて、前記(ア)~(ウ)の視点に照らして評価を行います。
 
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2.政策課題の妥当性 7点/30点中

安倍政権の掲げた課題

 政権構想では、安倍政権の最上位の理念と位置付けられる「政権の4つの基本的方向性」の一つの柱である「文化・伝統・自然・歴史を大切にする国」 の中身の冒頭に、「新たな時代を切り開く日本にふさわしい憲法の制定」を掲げています。政権成立時から既に、安倍政権の第一のアジェンダが憲法改正であっ たことがここに示されています。

 そして、所信表明では、「現行の憲法は、日本が占領されている時代に制定され、既に60年近くが経った」として、政権が憲法問題について重視して いる論点を提示し、「与野党において議論が深められ、方向性がしっかりと出てくることを願う」、「まずは日本国憲法の改正手続に関する法律案の早期成立を 目指す」とし、改憲に向けた議論の醸成と手続きの整備を当面の課題として確定しました。さらに、施政方針では、「日本国憲法の改正手続に関する法律案の今 国会での成立を強く期待する」として、国民投票法案の成立に課題の照準を絞る形となりました。 

■形式評価 5点/20点中

 上記の安倍マニフェストでは、新憲法の制定→そのための与野党の議論の活発化→まずは改憲手続を整備すべく国民投票法案の成立という、政策マネー ジメントでいえば、特定の目的を実現するための手段の部分については記載されていますが、目的の部分が曖昧です。すなわち、それでは何のための憲法改正な のかという点について安倍マニフェストを見ると、それに相当するのは、「戦後レジームからの脱却」をして「美しい国」を創るという部分ですが、マニフェス ト全体を通して「美しい国」の内容は曖昧であり、安倍総理の言う「戦後レジーム」とは何かの定義がどこにもありません([基準(ア)]が満たされていな い)。それではマニフェストの読者はそもそも憲法改正がなぜ必要なのかについての判断もできません([基準(イ)]も当然満たされない)。そこにはわずか に、[基準(ウ)]の手続きだけは踏むとのメッセージがあるだけであり、手段の自己目的化がはなはだしいといえます。

[ 基準(ア) ]まず、日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をやる国(あるいは何をやらない国)になるのか、政党としての考え方を明示すること。

[ 基準(イ) ]次に、それを実現する上で、憲法のどこが問題で、どのような方向で見直さなければならないかを示し、国民が改憲の必要性について判断できる材料を提供すること。

[ 基準(ウ) ]議論の手続き自体の政治的中立性、不偏不党性を確保すること。
 

  ■実質評価 2点/10点中

 安倍マニフェスト以外の場でも、安倍総理は官邸配信のメールマガジンなどで、「制定後60年を経て憲法を取り巻く状況が変わったこと」を憲法改正 の必要性として述べており、例えば、「環境権などの新しい価値観が生まれたこと、冷戦が終わり、大量破壊兵器の拡散や国際テロといった新たな脅威が出現す るなど国際社会が大きく変化したこと、世界第2位の経済大国となり、国際社会における責任が大きくなったこと」などを改憲理由に挙げています。

 しかし、現行憲法下においても、例えば新しい人権の保障は憲法13条の幸福追求権と判例により概ね対応されており、テロ対策や国際貢献は集団的自 衛権の是非に議論は及ぶものの、現在は個別法により対応されています。例えば「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の柳井座長も、「憲法第9条を よく読むと、解釈には幅があり、憲法第9条第1項は、「国際紛争を解決する手段として」は武力の行使を放棄しているにすぎず、個別的及び集団的自衛権まで を放棄したとは明文上書いてあるわけではないので、解釈に余地があるのではないだろうか。」と述べています。

 すなわち、「新しい時代に即した新しい憲法を」という理屈には一理あるとしても、改憲をアジェンダに載せるのであれば、「日本国憲法は基本的人権 の保障を確保するために硬性憲法の形式をとっているのであるから、時代の変化に対しては可能な限り解釈によって対応することを予定して制定されているた め、時代の変化が直ちに憲法改正を導くとするためには、解釈によってはもはや対応が不可能であることを説明すべきである。」との考え方に応えられるだけの 立論や材料が必要でしょう。それが見られなかったのは、[基準(ア)]→[基準(イ)]のプロセスの欠如によるものであるといえます。

 国民投票法については、その制定を目指すこと自体は、憲法改正手続きについて定める憲法96条自体が予定したものであり、いわば法の欠缺を埋める ものとも言えます。(過去には、1953年に自治庁が国民投票法案を作成し、吉田首相一任となったものの、「内閣が憲法改正の意図を持っていると誤解を招 く」とされ、閣議決定は見送られた経緯があります。)

しかしながら、改憲の必要性について未だ[基準(ア)]→[基準(イ)]の議論プロセスが未成熟な中にあって、改憲の手続き法を制定しようとする 課題設定自体が性急に過ぎる印象を与えます。それは、容易な改正を許さないことで基本的人権の確保を図るために日本国憲法が硬性憲法の形をとっていること に鑑みても、順序が逆といえるでしょう。


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3.実行プロセス 7点/10点中

■形式評価 7点/10点中

 国民投票法を巡る一連の動きは、小泉政権期の2006年5月26日、第164回通常国会において、与党案である「日本国憲法の改正手続に関する法 律案」、民主党案である「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」がともに議員立法の形で国会に提 出されたのが始まりでした。

 憲法改正の手続法を定めるプロセスにおいては、党派的利害を超えた見地からのコンセンサスがとられていたか、あるいは、とるための努力がなされていたか、が評価の視点となりますが【(基準(ウ)]】、この点では、安倍政権・与党には評価できる点も見られました。

[ 基準(ア) ]まず、日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をやる国(あるいは何をやらない国)になるのか、政党としての考え方を明示すること。

[ 基準(イ) ]次に、それを実現する上で、憲法のどこが問題で、どのような方向で見直さなければならないかを示し、国民が改憲の必要性について判断できる材料を提供すること。

[ 基準(ウ) ]議論の手続き自体の政治的中立性、不偏不党性を確保すること。

まず、安倍政権下で、衆議院憲法調査特別委員会内に「日本国憲法の改正手続に関する法律案等審査小委員会」が設置され、5回にわたり学識経験者・報道関 係者等の参考人から意見が聴取されました。また、与党・民主党両案の審査と並行して、自民党、公明党、民主党の3党合意を前提とした新たな法案も模索さ れ、自民党の船田元衆議院議員、民主党の枝野幸男衆議院議員らが中心となって合意に向けた協議が行われました。

 また、参議院では衆議院で可決された与党の併合修正案に対して、民主党から議員立法の形で出された民主党案が参議院憲法調査特別委員会で審議され た際には、議員提出法案としては異例となる首相や関係閣僚出席のもとでの質疑等が行われました。また、参議院で与党案が可決される際には、18項目にわた る附帯決議が民主党の賛成をも得てなされました。

 このように、三党合意を目指す動きや、首相の異例の出席、部分的とは言え与野党一致の決議がなされたことは、憲法問題を超党派的コンセンサスの下で解決することを目指す行政権・立法権の意識的な努力に資するという点で評価できます。

 しかし、中央公聴会の開催も省略するなど、4月13日の衆議院可決からわずか1ヶ月のスピード審議で国民投票法案の採決が強行され、結果として賛成122に対し反対が99もあったことは、コンセンサスがとれたとは到底言いがたい状況といえます。

 5月14日に成立した国民投票法の特徴は、(1)国民投票のテーマを憲法改正に限定(2)投票年齢は18歳以上(3)国家公務員法などによる公務 員への「政治的行為の制限」を原則適用(4)公務員と教育者の「地位を利用」した運動を禁止、などが柱となっています。但し、国民投票法の施行は成立から 3年後の2010年で、それまで国会への改憲原案の提出・審議はできません。この3年間の凍結期間中に、公務員への「政治的行為の制限」の具体的な基準づ くりや、選挙権年齢も18歳以上に引き下げる法整備も検討するほか、与党側は改憲案の骨子・要綱案を作成できるとしており、実質的な改憲論議が始まる可能 性もあります。改憲案を投票にかける前に個別の論点を国民に問う「予備的投票制度」についても今後検討するとされています。

 改憲そのものを巡る動きとしては、所信表明や施政方針演説で憲法改正を打ち出すのは、自民党初代総裁の鳩山首相以来51年ぶりのことです。安倍総 理は、「集団的自衛権は有するものの、その行使は禁じられている」との従来の政府解釈の見直しについて、それに向けた具体的研究を行う考えを示しました。 自民党は2005年に新憲法草案を策定しており、安倍総理もかつてその作成に関与しています。第167回国会から、衆参両院に「憲法審査会」が設置される ことも決められました。このように、憲法問題は政治スケジュールに乗り始めました。

 集団的自衛権の問題については、安倍総理は2007年4月に「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」 を設置し、(1) 米国に向かう弾道ミサイルを日本が迎撃できるか(2)公海上で米軍艦船が攻撃された場合、近くの自衛隊艦船が援護できるか(3)国連平和維持活動 (PKO)などの活動で他国部隊が攻撃を受けたときに自衛隊が救援できるか(4)PKOなどでの後方支援のあり方、の4類型を検討対象に挙げています。 

■実質評価 0点/10点中

 安倍首相の政権基盤は、郵政民営化を争点にして小泉前首相が得た2005年衆議院選挙大勝利の結果の禅譲を受けたものです。それなのに、「まず改 正ありき」の安倍首相が、自身や憲法改正路線が支持されたわけではないにも関わらず、現在手にしている衆議院の多数議席を背に、国民投票法案を成立させ、 粛々と改正へ向けて急いでいます。こうした政治的雰囲気のまま、国民的コンセンサスの醸成を経ずに、自民党が掲げるように平成22年に憲法が発議されたと しても、混乱することが必定でしょう。

 戦後の日本に問題があったのは間違いありません。従って、それは色々な形で是正していくべきで、是正の最終到達点が憲法改正であるのはその通りで す。だからこそ、腰を落ち着けて議論すべきところは多いはずなのですが、その進め方をみると、改憲を先導している人々の力学が先行している感が否めませ ん。

 国民投票法があること自体は当然であって、ないことの方がおかしかったというのは正しく、それは安倍政権の成果として評価できる要素ではありま す。しかし、改憲の衝動を強く持つ人たちが中心になって国民投票法ができるというのは、必ずしも完全に民主主義的とはいえませんし、特に[基準(ウ)]に 照らして妥当だったとはいえません。 これは、党派を超えて、政治家主導ということでは必ずしもなく、法律の専門家等による法律論の立場から検討を加え、それで出来上がった投票法の結果とし て、改憲が認められる場合もあれば否定される場合もあり得るという、両方のシナリオから見て中立的な法律をつくるというのが、望ましいプロセスでした。

 国民投票法案の中身も、うがった見方をすれば、最低投票率を決めないのは、「改憲させないために投票に行かない」運動で改憲がつぶされることに対 する防御という発想がないとはいえません。つまり、改憲をできるだけ速く実現したいという衝動があって、国民投票法という まさに法律として政治性のないものをつくるべき作業に、それが力学として働いてしまっているという図式が透けてみえます。憲法改正そのものが長期的な課題 であるがゆえに、こうした実行プロセスであっては将来に禍根を残しかねません。

現状は、改憲で何をやるのかについての深い議論のないまま、「戦後トラウマ」に突き動かされています。本来は、何のための改憲なのか、将来、日本はどう いう方向に動いていくべきなのかという前向きの議論を行って、そこで具体的な中身に対する国民的な討論を盛り上げた上で、その中から落ち着くところに落ち 着かせていくというプロセスを経るべきです。現在の政治的な雰囲気はそうではありません。

  また、自民党案を出して、イエスかノーか、反対者は護憲論者だという図式の提示は、日本国民全体にとって将来的に希望を持てるような議論の仕方にはなりません。

集団的自衛権については、前述の有識者懇談会のメンバー構成をみても、行使容認論者で固められており、基本的に反対派はそこに入っていないという 構図があります。確かに、 日本の安全保障の論理立ての空隙部分をどうするかは重要な課題であり、早くとも3年後の改憲までの間に生じ得る事態に対する手当てとして、政府解釈の変更 を行っておくという安倍総理の考え方は理解できないではありません。しかし、それは憲法9条の改正先にありきで、そこに持って行く上での既成事実化につな がるものであって、日本国憲法の硬性憲法としての性格上求められる[基準(ウ)]に照らせば、政府解釈の議論の段階においても、せめて中立的なメンバー選 定による不偏不党の審議のスタイルは確保すべきだったといえます。


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4.実績 5点/20点中

■形式評価(アウトプットを評価) 5点/10点中

 中曽根元総理は、国民投票法の成立には、憲法が初めて国民のものになるという重大な意味があるとしています。

しかし、国民投票法案の可決に当たっては、最低投票率制度の意義・是非について検討することを含む18項目にも及ぶ付帯決議がなされており、このままで は憲法改正が実施できる状況とはいえません。この法案が議員立法であるにも関わらず、ここまで付帯決議が多いということは、コンセンサスが十分形成されな いままに、法案の成立だけが急がれたことを端的に示しています。

 他方、この法律については各弁護士会など法律の専門家から多数の批判が寄せられています。例えば、(1)国会が憲法改正を発議した日から起算して 60日以後180日以内に国民投票が行われてしまうのでは、国民が十分な議論を行うにはあまりに短期間であり、国民の意思が十分反映されないおそれがあ る,(2)憲法改正案の発議に当たっては内容において関連する事項ごとに区分して行うものとされているが,この区分が恣意的に行われた場合には、憲法改正 の論点ごとへの国民の意思が正確に反映されないおそれがある、(3)最低投票率の定めがないことは、極端に少数の国民の意思により憲法改正承認がなされる おそれがある、(4)公務員及び教育者の地位利用による国民投票運動禁止の要件がきわめて不明確である、といった問題が指摘されています。

 また、日本弁護士連合会は、2005年に既に、「投票率が一定割合に達しない場合には、憲法改正を承認するかどうかについての国民の意思を十分 に、かつ正確に反映するものとはいえない」として投票率に関する規定を設けるべきとの意見を発表していましたが、最低投票率に関しては、設定の是非も含め て継続審議とされました。

以上、法案は成立しても、制度としての整備とそのコンセンサスはまだ不十分な状況といえます。
 

■実質評価(アウトカムを評価) 0点/10点中

 改憲は考えてもいいが、安倍総理にはやってほしくない、という状況は、どういう衝動でこれだけ急ぐのかという違和感の反映だと思われます。

 確かに、 集団的自衛権、中国に対する自己主張、主張する外交の展開、教育再生などは安倍総理が考えるアジェンダでしょう。問題は、それらのアジェンダをつなぐ体系 がどこにあるのかが見えないことです。それが戦後の日本に対する一種のトラウマであり、それがすべてをつないでいるとすれば、現実の世界ではそれは動きま せん。そこにはシステム全体の改革が必要となるはずです。

「戦後」に問題があるから変えようという訴えかけをしている限りにおいて、多くの国民はそのとおりだと思っていると考えられますが、実際にはそれをどう 変えて、それが変わった結果日本がどうなるのかという現実が見えてきたときに、様々な考慮すべき要素が現れてくることになります。そこを議論しないままに 改憲だけが実現すれば、その時点で大きな混乱が起こるでしょう。

 集団的自衛権も、それを行使できないのはおかしいという現実論は確かに正論としてあります。しかし、 現在、北朝鮮有事を中心に行われている個別的ケースの議論はともかく、今回の有識者懇談会のアジェンダとは別に考えてみた場合、集団的自衛権の行使を認め たいという衝動で動いた先に出てくるのは、アメリカが戦争をする場合に、同盟関係があるから日本も参戦をという要請がまず来るということです。 そこで日本がいかなるケースでイエスと言い、どのような場合にノーと言うのかという、まさに幅広い戦略論や国際情勢論を主体的に展開しながらこの議論をし なければ本質論にはなりません。

 憲法の改正と戦後レジームからの脱却という2つが結びつくと、論理的には、改憲した後の日本は戦後の日本ではないということになります。それは、 韓国や中国の 日本への猜疑心を高めることになります。それは安倍総理の意図ではないでしょうし、韓国や中国のそのような対日理解は完全に誤りですが、結果として、日本 と国際社会あるいはアジアとのギャップを大きくするような結果をもたらしていることは、客観分析として間違いありません。それが、衝動に動かされた議論が 帰結するところです。

 そこに、今の議論が一種の「踏み絵」的な構造をもたらしている一つの原因があります。今の政権が主導する改憲に賛成か反対かと問われれば、心の中 では改憲論者であっても、そういう議論には乗れないということになりますが、それは必ずしも「護憲」ではないものの、今の改憲論者からすれば、「護憲論 者」と同じになってしまうという図式が少しずつ出てきてしまっています。現在のような提示の仕方であっては、国民が実際に投票に行く場合に、憲法問題で投 票するという人はほとんどいなくなるでしょう。それでは国民は判断のしようがないからです。

次に、これまでの流れの延長に実際に改憲が描かれるかどうかという現実論に立って考えてみれば、与党における改憲の実際の動きが、本気で改憲を目指した ものであるかは疑わしいものです。 安倍総理自身は性急な動きを示していますが、こうした状況に対する理解不足か、強硬な発言で自らの政治的立場を強めようとの動機が、そこにないとはいえな いでしょう。自民党の結党そのものが保守合同で改憲に必要な3分の2以上の議席を取ることを目指したものであり、自主憲法の制定は同党のアイデンティ ティーでもあることから、この問題が解決すればそれが失われるという面もあります。 安倍総理としては、他に争点化するものが見つからない手詰まり状態の中で、あるいは、年金問題などの争点化を回避する意味でも、こうした日本の大きな問題 を争点として強調しているきらいがあります。従って、これまでの動きが改憲を実際にスケジュール化させるに至るかどうかは疑わしい面があります。
 

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5.アカウンタビリティー 5点/30点中

 安倍総理自身の発言の中で、憲法改正を語る歴史観に矛盾が見られます。すなわち、「戦後レジームからの脱却を目指す」との発言の前提には、戦後日 本の国家体制に対する否定的な評価があるはずです。しかし、他方で、「主張する外交」の中身として、安倍総理の発言には、戦後日本の国際貢献、平和路線を 認めるべきだとの言い方が随所にみられ、そこでは、戦後日本のあり方を肯定する認識が前提になっています。

 戦後日本の良い面は活かし、悪い面は克服するというのであれば、やはり、安倍総理の言う、脱却すべき「戦後レジーム」とは何かの定義を明確に説明 し、そこに整合性あるアカウンタビリティーを発揮しなければならないでしょう。それが欠如していることは、安倍総理の改憲論そのものに論理的に煮詰まった 考え方が備わっていないことを示すものです。 安倍総理は、「戦後レジーム」からの脱却という言葉の意味ほどのグランドデザインを語っているようにはみえません。こうした点も、安倍総理は何をやりたい のかという【基準(ア)】が満たされていないことに由来するアカウンタビリティーの欠如といえます。

[ 基準(ア) ]まず、日本がどのような国を目指すのか、国際社会の中で何をやる国(あるいは何をやらない国)になるのか、政党としての考え方を明示すること。

[ 基準(イ) ]次に、それを実現する上で、憲法のどこが問題で、どのような方向で見直さなければならないかを示し、国民が改憲の必要性について判断できる材料を提供すること。

[ 基準(ウ) ]議論の手続き自体の政治的中立性、不偏不党性を確保すること。

加えて、前述のように、日本が集団的自衛権を行使できるようになってアメリカの戦争を戦える国になるという状況が現実のものになってきたときには、日本 の国民の多くは再考するでしょう。集団的自衛権を認めるということは、日本が全く新しい状況になることを意味しますが、その備えはなく、それは時間をかけ て説明しながら議論を深めていかなければ、国民の意識には上ってきません。そのような演出は、残念ながら現在までは見られませんでした。

 さらに言えば、集団的自衛権の行使を認めて日本がアメリカの戦争を戦える国になるということは、論理的にいえば、憲法9条を書き直すことによって 日米安保条約も書き直すということです。現在の日米安全保障条約は、9条を前提にして中身ができているからです。そこで、当然のことながら、アメリカ側の 日本に対する要請としても、9条を変えれば日本はもっとアメリカに協力してもらえるということになります。しかしながら、現状において、こうした説明は全 くなされていません。そのような状況では、新しい9条と改訂した9条と日米安保条約というものを、どういう論理でつなぎ、日米安保はどのような姿になるの かという議論に入っていった際に、日本国民のコンセンサスを得ることは困難でしょう。少なくともそこには大きな混乱が予想されます。

 また、憲法改正によって目指す将来の国家像を描いたとしても、改憲を主導する立場の政党や政治家が、彼らのビジョンや発想を一方的に国民に伝えて 判断を求めるというスタイルになってしまってはなりません。自民党が2005年に出した憲法草案も、国民にもっと読んでもらう努力を行い、改憲案のあくま でも1つの提案として提示する必要があります。 複数の改憲提案を様々な政治的なグループが提示し、その国民的議論を呼びかけるというステージを政治の側が設定することが求められます。

いずれにせよ、提起されている改憲論の中身が分からない現状では、有権者がそれを支持すべきかどうか判断のしようがありません。そこであり得る判 断は、今のやり方でいいのかどうかという点に限定されてくることになります。もし、そうであるとしても、長期的なロードマップを提示して、例えば今回の参 院選はこの段階の試みだという説明を最低限、行わなければならないはずです。


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