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小泉政権第1期~第4期実績評価 印刷 Eメール

小泉政権第1期~第4期実績評価:農業問題(食料政策)

1.評価の視点

政権期間を通した全体評価を行うに当たっては、農業分野に係る政策の評価の視点を、日本の置かれた全体的な状況がこの分野に投げかけている大きな3つの課題に絞ることとします。以下の「6つの視点」は、この3つの課題と有機的に関連するものです。

●  課題A:グローバル化と食料安全保障を両立させる唯一の道としての食料生産性の向上
解決策:大規模営農への食料生産の集約化

●  課題B:活力ある超高齢化社会の運営モデルの構築
解決策:2007年問題(団塊の世代のリタイアの開始)に対応すべく高齢者の二箇所居住や就農の受皿としての農山村コミュニティーの形成

●  課題C:環境や資源についての持続可能性の確保
解決策(例):循環型エネルギーや循環型社会に向けたイノベーション、森林などの自然資源の保全など

以下、評価は上記のうち、課題Aの観点を中心に行うこととします。


<6つの視点>

a)日本経済の生産性の向上
b)高付加価値化と高度な消費市場の構築
c)アジアや世界におけるグローバルな繁栄基盤の構築
d)安全・安心[国家安全保障としての食料安全保障とエンドユーザー(消費者)の厚生]
e)地域再生
f)持続可能性(日本の経済社会システム(財政を含む)、人類社会の存続可能性(地球環境など))
 

上記6つの評価の視点は相互に密接に関連しています。それを端的に示すものが、小泉政権下で明確に打ち出された、担い手の創出とそこへの営農の集中化政策 です。こうした政府・与党の農政の基本的方向は、従来からの保護の対象として農業を捉える姿勢から、プロの営農者を中心に農業を重要産業として発展させる 「攻め」の姿勢へと農政を転換させてこそ、その趣旨に即した効果を発揮するものと考えられます。

2005年3月、政府は、食料・農業・農村政策推進本部において「21世紀新農政の推進について」(以下、「推進について」)を決定し、同月、「食料・農 業・農村基本計画」を閣議決定しました。2006年4月には、同本部により、「攻めの農政」の視点に立った国際戦略の構築と、国内農業の体質強化に向けた 取組みをスピード感を持って推進するとの考え方の下に、「21世紀新農政2006」(以下、「新農政2006」)が決定されました。

既に2005年の「推進について」で設定されていた農業の課題が、「攻めの農政」への転換であり、これが小泉政権のキャッチフレーズでした。これは、「外 から入ってくるものが心配なので守る」という従来からの「守りの農政」から、「外に目を向けて新しい分野を開拓していく」という思想への転換を意味してい ます。農業は縮こまるのではなく、海外市場に日本の優れた農産物を出し、値段が高くても売れるものを売るという市場開拓を行い(外への攻め)、国内ではバ イオマス・消費者の視点・食育といった新しい政策ニーズに応えていく(中での攻め)、加えて、グローバル化の中で国際戦略上、農業も合理化し構造改革を進 める、それも兼業農家を含めた全体ではなく、将来の担い手に重点を絞って投資を集中するという方向への構造改革を行うというのが、「推進について」で描か れた21世紀新農政の姿でした。小泉政権第4期における「新農政2006」の決定は、これをさらにどう推進していくかについての戦略上の課題を設定したも のと位置づけられます。

 

2.第1~4期小泉政権の全体評価


分野名

argaiv1349

農業問題

実績

課題設定の妥当性

実行過程

説明責任

評価点

合計

35/50

15/30

15/20

40/100

65/100



■総評

小泉政権全体を通して、マニフェストには重要施策が盛り込まれたものの、理念と手段の関連がわかりにくく、マニフェストが備えるべき体系性を欠いていまし た。実質的な成果が出てきている政策もあり、評価できます。しかし政策の形成過程は、マニフェストで約束された政策の実行というより、関係者間で合意した 政策が後追い的にマニフェストに掲げられるというものでした。次の政権に残された課題も多く、将来の日本の農業のあり方とそのために必要なコスト等を国民 に示すこともありませんでした。

(1)課題設定の妥当性

政権期間を通して、上記3つの課題に関連する措置はマニフェストに適宜盛り込まれてはいましたが、3つの課題のいずれについても、この分野の上位理念としての位置付けで明確に謳われたとは言えません。

例えば、自民党2003マニフェストは、食料については、①食の安全の確保、②食料安全保障の確立のために食料自給率を向上、③食育の推進のための「食育 基本法」の制定、の3項目から成っており、それぞれが意味のある項目ではあるものの、このマニフェストにおいて最も不明確だった点は農業の生産性の問題で した。しかも、このマニフェストでは、農業の生産性向上の視点は、「都市と農村」という地域再生の視点の下に整理されており、マニフェストの政策体系とし て極めてわかりにくいものとなっていました。これは、自民党の票田である農家に対しては、厳しい施策を地域再生という言葉でオブラートに包むという意図が ある、との穿った見方をも惹起しかねないものでした。

ただし、そこには「農業の国際競争力の強化」が明記され、その手段として2005年の「食料・農業・農村基本計画」の見直しが明示され、それにより「農地 制度等の見直しにより家族農業経営、集落営農に加え、株式会社など地域農業の担い手を創出し、担い手の経営を支援する品目横断的な政策への移行を実現す る」こととされていました。このように、2003マニフェストの時点で既に、「新農政」プログラムの決定に至る流れは盛り込まれていたことは事実です。し かし問題は、課題Aに係る上位理念の提示と政策の体系性が欠如していたことであり、マニフェストそのものの評価としてはこの点は大きなマイナスとなりま す。また、課題Bについても、2003マニフェストでは、都市と農村の共生・対流との項目の提示で、これに即した政策は盛り込まれていたものの、そこにあ るべき上位理念が提示されていたわけではありません。

こうした2003マニフェストの欠陥は、2005マニフェストにおいては、「攻めの農政」との理念が打ち出されたことによって大きく改善されました。それ は、課題Aに向けた自民党内の考え方の整理や必要な調整が進み、2005年3月の「推進について」あるいは「基本計画」の決定を受けて、これをマニフェス トに高らかに掲げられる状況が生まれたことによるものでしょう。しかしこのマニフェストにおいても、第4期評価で指摘したように、各項目の措置や目標の相 互の関連性が不明確で、何を優先しそれらを通じて全体として何を実現しようとしているかという、ビジョン性や体系性が不足していました。
 

(2)実行過程

現実の政策の進展には実質的な成果が挙がっています。

課題Aについてみれば、小泉政権を通じて意図されていたのは農業の生産性向上に向けた「選択と集中」であり、これまで兼業農家を含めてばら撒かれてきた補 助金を、地域での農業の担い手を創出してそこに重点化し、プロ農家を支援することに主眼を置くことでした。プロの専業農家に施策を集中し、兼業農家の農地 はプロ農家に集約され、個々の営農者は農地を借りる、または、いずれ実現が目指されている株式会社が設立されていくという流れになります。こうした変革は 未だ実現に向けた途上にあります。しかし、日本の農業政策のプログラムは将来におけるこの政策の実現と整合性を取るように改変されていったのであり、これ に即した検討や予算や法律など必要な措置のインプット、関係者の合意形成が着実に図られています。課題Bについても、団塊の世代など都市住民の定住促進の 取組みが、女性の農業経営やフリターの就農促進などとともに明確に打ち出されるようになってきました。課題Cに関しても、バイオマスの利活用を始めとする イノベーションや森林の環境資源政策といった視点が政権期間を通じて次第に鮮明化してきたといえます。

ただし、マニフェストサイクルの視点からみれば、政権が国民との間で契約した政策を実行するプロセスというよりも、農水省と与党や関係者の間での調整の結 果、実現可能となった改革の方向や政府が決定した政策体系が後追い的にマニフェストで示され、そうであるがゆえにマニフェストの実行過程が結果として着実 なものにみえることになったとの印象は拭えません。それを端的に示すのが、2003マニフェストの曖昧さと「新農政2006」で明らかになった政策体系の 明確性とのギャップでした。

(3)実績

実績評価については課題Aの視点に絞って行います。以下に見る通り、小泉政権の5年半にわたる食料政策の実績を全体としてみれば、政権末期にかけて実現し た課題設定は高く評価できます。しかしアウトプットについては、肝心の食料自給率がその目標設定後5年にわたり全く変化がなく、改革のスタートもあるべき 時間軸からみれば遅れているなど評価できない点もあることに加え、後述のように未だ多くの課題が次期政権に残されたままだと言えます。

【専業農家への集約化・大規模化に向けた改革について】
政府が現在打ち出している「攻めの農政」あるいは「21世紀新農政」という言葉は、元々、「縮こまらずに積極的に攻めていく」との小泉前総理自身の考え方 が反映されたものであり、その点は農政分野における総理のリーダーシップとして評価できるでしょう。この発想は安倍総理も同様とみられ、昭和49年頃に安 倍晋太郎氏も「攻めの農政」を主張していたとされるように、兼業農家ではなく、専業農家に大規模化し競争力をつけていくという思想自体は、過去から将来へ と引き継がれていく自民党農政の一つの考え方と評されます。この点で、自民党との違いを出そうとするあまり、地方を重視する姿勢を見せつつ、所得維持のた めに1兆円の直接支払いを兼業農家にもばら撒こうとする民主党に比べ、経営体を育成してそこに補助金を重点化しようとする自民党の姿勢は積極的であると言 えます。

小泉政権は集落営農という点では最後までぶれずに改革路線を進めましたが、それは小泉総理の存在が大きかったと評価できるでしょう。この間、激しい抵抗もありましたが今や、農協も全体の方向は受け入れ、条件闘争に転じるに至っています。

ただし、小泉政権になってから、こうした方向での農政が新しく動き始めたということでは必ずしもありません。むしろ遡れば、93年のGATTウルグアイ・ ラウンドの実質合意の前年の92年に、新しい食料・農業・農村政策の方向という政策文書が出されたことが起点になっています。「新農政2006」で謳われ ている「効率的かつ安定的な農業経営」は新政策とされていますが、既に92年に「望ましい経営体」という表現が使われており、その内容は同じものでした。 その後、2000年に第1回目の基本計画が策定され、そこで農政の改革の方向を検討することになり、ある程度の方向は示していましたが、具体論の段階で、 改革は一旦足踏みすることになりました。

すなわち、そこでは自給率の目標で議論が尽くされ、具体的な足元の改革には踏み込めず、担い手に集中した経営支援策の問題、農地制度、環境政策の3点が 「検討を行う」との表現にとどまり、積み残されることとなりました。その背景にあったのは、2000年の雪印の食中毒の問題と翌年9月のBSE問題であ り、食の安全・安心の問題へと政策が大きく振れ、本来の農業政策をどうするかという点が停滞することになりました。

その巻き返しを2005年の基本計画に向けて図ったのが2003年8月の亀井農林大臣の談話であり、2000年に検討すると言っておきながら検討していな かった課題への取組みがここに始まりました。小泉政権の実績は、それを加速・後押しした点にあり、流れそのものは以前から存在していたというのが公平な評 価でしょう。

また、こうした改革の動きが取り戻されたのは小泉政権の実績だとしても、それが日本の対応のあるべき時間軸からみれば相当遅れていたことは否定できませ ん。すなわち、WTOやFTAでの国際交渉の過程で今後、国境措置が低下していく流れに対する長期的な対応は、まさに担い手育成により競争力を強化するこ とにあります。これによって懐を深くすることにより、結果的にはFTAやEPA戦略を進められるようになります。いきなり国境措置を撤廃するのではなく、 例えば10年程度の時間軸でこうした施策と整合的に進める過程が本来、想定されていたものであり、そうであるがゆえに、今回の施策は急がなければならない ものでした。これが先送りされてきた流れがあったため、本来はウルグアイ・ラウンドが終了した2~3年後に踏み込むべき施策だったと言えます。

農政面での小泉政権の特徴は、むしろ「攻めの農政」にあり、最大の特徴は「輸出の倍増」にあると言えます。小泉政権は「5年で倍増」を掲げましたが、これ は、それまで流れがなかったという意味では小泉政権の独自の実績といえるものであり、それも、官僚サイドでは10年で倍増程度に考えていたものを「5年で 達成」にまで積極化しました。

また、規制改革についても、農地制度に関しては適切な方向に動いており、特区での株式会社の参入も全国化されるなど、各分野で適切な方向に動いていると評価できるでしょう。小泉政権がそれを後押しし、あるいは味付けしてきたことは間違いありません。

【目標設定に対する評価】
今回の施策で政府が設定した目標で最も重要なのが、「担い手」とされる人々がどの程度のシェアを占めるかであり、平成27年に「効率的かつ安定的な農業経 営の経営面積」について7~8割との目標設定がなされています。ヨーロッパでは概ね、これが7~8割を上回る程度となっており、政府はその姿を目指してい ることになりますが、「効率的かつ安定的な農業経営」とは、他の産業の従事者と概ね同程度の労働生産性で同程度の所得が得られ、それも安定しているという 状況を実現する農業経営規模ということを意味しています。農産物の中の7~8割はこうした経営から産出されるようにするという目標であり、現在の日本の農 政に問われている視点に照らして妥当な目標と評価できます。

他方、今般、一般企業等の法人の農業参入数を5年で3倍増との目標(156→500)も設定されましたが、重要なのは参入障壁を着実に外していくことであ り、資本主義の論理であるべき世界に経営体の数まで数値目標化することにどこまで意味があるのか、社会主義的ではないかとの疑問は残ります。

食料自給率の目標については、政府が2010年度までの45%への引上げ目標を設定してから5年を経ても40%のままにとどまっているのは、小泉政権の5 年半のアウトプットがこの面で全くなかったとの評価になります。自給率40%は既に8年連続で続いており、これを再度、10年後に45%に引上げるとの目 標設定は5年の先送りということにもなります。

これはカロリーベースでの自給率[注1]ですが、今回はこのほかに、金額ベースの自給率目標が設定されています。前回の基本計画でも掲げていましたが、その際は参 考指標との扱いだったのが、今回は目標に格上げされたものであり、これは正しい対応だったといえるでしょう。すなわち、農業を経営や産業として捉え、その ボリューム面でのプレゼンスを図るとすれば、金額ベースでみるべきだからです[1]。良質の畜産物や高級野菜、果物では日本の農業は奮闘しており、金額 ベースでは7割程度の自給率は確保されています。カロリーベースは食料安全保障のための自給率であり、国家としては大切ですが、消費者や生活者の側から も、また、農業経営の側からも見る視点が必要だと言えます。金額ベースを目標にしたのは今回が始めてであり、この点は評価できるでしょう。


[注1] 例えばレタスはほぼ100%自給されていますが、それはカロリーベースの自給率には全く反映されません。野菜はほとんどがそうで、牛肉も、国産と輸入では 3~5対1程度の価格差がありますが、カロリーベースでは1対1になってしまいます。国産の品質が優れ、消費者に受け入れられ、評価が高いものがきちんと 反映されるのが金額ベースの自給率であると言えます。

(4)説明責任

小泉政権の農政が「攻めの農政」へと集約されていったことは、日本の農政に問われる本質的な課題のひとつの解決策の所在を明確化するうえで大きな効果を発 揮したといえます。しかし、第4期評価でも触れたように、そこで優先されている政策目的とは何なのか、それを通じて日本の農業について何を実現し、例えば 10年後の日本の農業や農村のあり方をどう描いているのか、といった点については明確ではありませんでした。加えて、「攻め」という言葉のイメージが小泉 構造改革路線と二重映しとなり、それがあたかも弱肉強食の競争原理を農村にもたらすかの如くに理解されていたことが、後年の安倍政権下での参院選大敗を受 けた自民党農政のブレをもたらしました。そこには、政権与党による説明不足があったことは否めません。営農集約の路線が農村コミュニティーや担い手育成の 上でどのような状態を実現することになるのか、それが戦後の農業社会システムに抜本的な変革を迫るほどの改革であり、かつ、そこにしか日本の農業の将来を 開く道がないのであれば、政権として全国200万人の農業関係者との不断のコミュニケーションと政策理念への理解の浸透を図る営みがもっと必要だったとい えます。

「攻めの農政」によっても最終的に日本の食料自給の問題は解決するものではなく、国内でどこまで自給し、海外からの輸入にどこまで依存するのか、その際の 国民経済的なコストはどの程度になるのかも、国民に明らかにしなければならない論点です。そうした点も含め、将来の望ましい日本の農業のあり方と、それを 実現する上で必要なコストや消費者の利益を選択肢として提示することが、農政に問われていた最大の説明責任でしたが、小泉政権期間中にそれが適切に果たさ れていたとはいえません。



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