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2007年参議院選挙 有識者評価/「農業・食料政策」編

生源寺 眞一(東京大学大学院農学生命科学研究科教授・研究科長)
しょうげんじ・しんいち
profile
1951年愛知県生まれ。76年東京大学農学部卒業。農林省農事試験場研究員、農林水産省北海道農業試験場研究員、東京大学農学部助教授を経て現職。食料・農業・農村政策審議会委員、国土審議会委員、日本フードシステム学会会長等を務める。著書に『現代日本の農政改革』(東京大学出版会、2006年)など。

20年後の農業、農家のビジョンを提示すべき

 日本の農業で現在一番問題となっているのは、特に土地利用型農業で農業の担い手が本当に少なく、かつ高齢化していることだと思います。現在、水田中心の集落が全国に8万あると言われているのですが、その半分以上にはもう農家らしい農家(所得の中で半分以上が農業所得である農家)が一戸もないのです。今のところ、土地が荒れ放題ということはないですが、それは結局、昭和一ケタの方の踏ん張りでもっているようなものですね。しかし、昭和一ケタの人は一番若い方で今年中で73歳になります。そうすると、担い手をどうつくっていくかということが本当に待ったなしなのです。

 これと絡むのが食料の供給力というか安定供給の問題ですが、これも結局人です。人がいなければ農地ももたないですから。そういう意味では、担い手と食料の安定供給が最大の問題だと思います。

 こうした問題に対して、安倍政権が何か新しいことを提示しているわけではありません。ただ農政そのものは、平成11年の食料・農業・農村基本法に基づいて五年おきに基本計画をつくって動かしているわけです。平成17年に2回目の基本計画ができて、そこで今の政府としての政策は一応出そろっており、それに沿ってやっています。

 その中でまず、担い手の問題については、ある一定の規模以上の方を対象に、ある種の経営安定対策が行われています。これは、ある一定の規模の農家、あるいは集落営農でもいいのですが、若い人がこれなら農業をやってみようと思うようなサイズのしっかりした経営をつくり出すということです。昭和一ケタの方が踏ん張っていて、今後のことを考えると本当に悲観的にならざるを得ないという状況を変えるために、ある程度の規模の経営をつくり出そうとしているのです。

 原則として都府県では4ヘクタール以上、北海道では10ヘクタール以上の規模があれば支援の対象になります。これは、今すでに4ヘクタールに到達している人を対象にすると同時に、例えば3ヘクタールで中途半端なところにいる人たちを4ヘクタールに持っていくという支援政策です。その狙いは、こういう支援をすることによって、これまで以上に本格的に農業経営をやってみようという動きをつくり出すことです。

 支援とは具体的には補助金です。これは二つあって、一つは、品目別に出していた補助金を、総合して面積当たり幾らという形で支払うものです。これは、安価な外国の農産物と国内の生産物との間にギャップを埋めるものです。ただ、埋めるのも品目ごとにやるのはWTOの協定上まずいので、価格保障から所得保障に転換している。もう一つは、年々の価格変動の影響を緩和するための支払いです。

政策のアウトカムはそろそろ出始めていて、集落営農もあちこちに出てきました。ただ、これが長持ちするかどうかが問題で、これはこの3年、4年の勝負だと思います。個別の農家で規模拡大の動きはまだ弱いと思います。

 規模拡大を達成する方策として、そうすれば資金的に政府が支援しますというのは、確かに一つのインセンティブとなりますが、もう一つ考えられるのは、経営の厚みを増すことだと思います。日本の農業者のDNAの強みは、丁寧に耕していいものをつくって、生産物に付加価値をつけることです。あるいは、土地利用型農業に施設園芸のような集約的な農業を組み合わせるというように、規模だけではなく厚みを増すのがもう一つ大事なことです。そうした厚みのある経営を長続きさせるためにも、30代とか40代、あるいはもっと若い人を狙うべきだと思います。

 土地利用型農業で担い手がいなくなってしまったのは、この5年、10年の話ではないのです。多分30年、40年前に若かった人が農業をやろうかどうしようかと迷って、農業じゃない方を選んだ。その累積した結果が今の状況なのです。そうすると、今必要なのは、担い手の卵をいろいろ見つけ出して、その後押しをすることだと思います。

ですから、どの政党でも同様ですが、10年後、30年後の日本の農村についてどういう絵を描いているかが重要だと思います。

 また面積的な拡大への対策については、経営の支援策と同時に農地制度があります。これは力のある、あるいはこれからやっていく意欲のある農家のところに、引退する農家から農地を集めるというものです。今は、制度上は比較的集めやすくなっているのですが、農地を借りることはできても、それがあちこちに分散していてものすごく非効率なのです。これが面的に集積された形で、経営の資源としてやる気のある、あるいはこれからやろうという農家に行くかどうかがポイントです。政府はそれを今必死になって考えているのですが、答えはまだ出ていません。

要は利用する側の立場に立った農地制度に転換するということだと思いますが、一〇年ほど前から議論されているにもかかわらず、いまだに答えが出ていません。少しずつ良くなっていることは確かですが、これはもっと総合的にやることができただろうと私は思います。ここまで時間がかかるのは、やはりリーダーシップの問題だと思います。

国際競争力を強化するスピードを速めなくてはならない

 第二の食料の安定供給の問題は、国内は担い手をつくるということに尽きるのですが、もう一つは国境措置です。これも非常に大きな問題で、WTOの交渉なり、あるいはFTA、EPAの交渉の中で、非常に難しいかじ取りを迫られているのが現状です。これは食料の供給というか確保の問題ということで、政府はWTOでもできるだけ過酷な条件が課されないようにという観点ですし、EPAも、特にオーストラリア等については重要品目をちゃんと交渉の外に置いてほしいということだと思います。

 供給力ということになれば、日本に農業生産のための資源、つまり人と農地、さらに水がどれだけ健全に維持されているかが問題です。 農地はきちんと使っていることによって維持されるのですから、結局人なのです。人を育てる、あるいは経営を確保することが、結局安定供給のためのポテンシャルにつながるというわけです。

 WTOやFTA、EPAの議論について諮問会議で出しているのは、率直に言えば、農業はもう少し譲歩してもらって、あるいは譲歩できるような基盤をつくってもらって、国内の産業の成長の足場を外国とのつながりの中でつくりたいということだと思います。そこで、どこまでを関税撤廃に含めるかというところでせめぎ合いをしているのです。これは国民の判断の問題かもしれません。例えば国内でベストの条件をつくることができたとしても、なおまだコスト差があるとした場合に、それならば農業は外国に任せるのか。そうではなくて農家に対する所得保障をするのか。両方があり得ると思いますが、そういう問題提起は、実はあまりなされていません。 

 農業の構造改革を進めるのはいいのですが、それが極まったとして、ではそこでどういう選択が迫られるかという提示にまではなっていないと思います。とにかく頑張ればいいという感じです。

 WTOやFTAについては、結局、重要品目について妥協点がどれくらいの水準になるかということでしょう。周辺国が次々と締結へ向けて動き出している中でその水準を決めるのは、まさに構造改革の進み具合なのです。どこまで受け入れることができるかを決定する重要なファクターは、どこまで競争力がついているかということです。しかし、特に土地利用型農業に関しては競争力はまだついていない。そこをどう乗り越えるかが課題です。

 要するに日本政府は、日本の農業の足腰を強くする施策にドライブをかけます。そのスピードと国境措置の組み替えのスピードが歩調を合わせて、WTO、EPAに対処するという図を描いていると思いますね。それがうまくいけば体質強化した農業が残ると思っているのですが、今はそこまで準備はされていない。品目横断、経営安定対策、あるいは農地制度もそうですが、少しずつ動いていることは確かなのですが、そのスピードが非常に遅いのが問題です。

自民・民主の農業マニフェスト

 以上を踏まえて、今回の選挙で政党が何を国民に説明しなければならないかということですが、まず、担い手の現状をどう認識しているかが大前提にあると思います。その上で、5年後、10年後よりはむしろ20年後の日本の農業、農村のビジョンをきちんと提示することだと思います。その意味ではどの党のマニフェストも時間的な視野が短いという感じがします。特に民主党の戸別所得補償のアイデアは、今の構造を是認あるいは固定するような提案になっていると思うのです。自民党は動きをつくり出そうとしていると思いますけれども、ただ、どこまでそれを意識しているかということははっきり出てきていない。

 民主党は、WTOやFTAについてはできるだけのことをしよう、ただし、そのことと国内の農業の維持拡大を両立させると考えているわけです。そうすると、国境措置が例えば下がったりする場合に、例えばお米でも影響を受けることなら、そこを埋めて販売農家全部に一兆円程度の「戸別所得補償制度」を実施するとしています。ここが自民党や政府の言っている一定の規模以上との大きな違いです。民主党はここに注目して、自民党に対して「小規模農家は切り捨てですか」と迫ることができるという意味では、それなりの説得力があると思います。

 ただし、実際には経済的にきついのは農業中心で規模の大きい農家ですし、小規模農家の多くは安定兼業農家ですから、経済的にはむしろ安定しているのです。兼業農家ばかりだから問題なので、大きい方が頑張らなくてはまずいわけです。そこの構図がどうもきちんと認識・整理されていないような気はします。

 したがって、結局今の構図を固定してしまい、その次の本当に農家らしい農家がいなくなっている事態をどう打開するかについての答えになっていないと思います。ただ民主党のマニフェストを見ると、規模拡大については加算ということが含まれていて、そこを大分気にしているのは確かです。

 WTOやFTAについて、自民党は非常にはっきりしていて、重要品目をどれだけ確保できるか、上限関税は断固として阻止。要するに、農業団体のおっしゃっていることとほぼそのままです。要は、できるだけ守るものは守るということです。

 民主党は、上述のように、貿易自由化協議および各国との自由貿易協定締結の促進と農産物の国内生産の維持拡大を両立させますという言い方です。どの程度のレベルで妥結すべきかについて触れていませんが、しかし、こちらの方が交渉に対する態度としてはやや前向きな感じがします。もちろん、言葉だけ捉えれば、自民党もそう言っている部分はあるのですが。

 もう一つ、民主党の所得補償が総額1兆円で済むのかという問題です。農林水産省の予算が今三兆円を切っていることを考えれば、1兆円とは非常に多いわけですが、これだけの予算で足りるかどうかという問題があります。
 

自民党と民主党がマニフェストを提示した場合に国民がどう判断するかということになれば、私自身は、今の政府や自民党の方が、基本的には国民世論の判断に合致していると思います。現在の日本では、国内で農業生産を維持・拡大してもらいたいと同時に、やはりコストダウンも必要だというのがだいたいのコンセンサスだと思います。とすれば、今の二つの政策を比べれば、自由民主党、公明党は、少なくとも動きをつくって生産性を上げていくことを考えているわけで、世論の大勢とマッチしていると思います。ただ政府の方も、30年後やそれより先まで見据えて担い手の卵をつくり出すというところまではまだ手が回っていません。

 したがって、今の自民党の政策を、これからやろうというような人を引き付けるような施策にグレードアップするというか、そういう説明をきちんとすることが必要だと思います。例えば1ヘクタール、2ヘクタールで始めた人に対しては、所得補償よりも、経営上のトレーニングとか、あるいは一時期農地が集積できるまでの生活費の一部をサポートして後で返してもらうとか、いわば農業奨学金ですね。そういう手立てがあり得ると思います。

 民主党にもそういう指摘はありません。現状に対する問題意識は同じように持っていると思いますが、結果的に現状を固定するようなことを言っています。

 最後に、食料自給率の取り組みについては、自民党は自給率という言葉は使っていません。安定供給とか供給力という言葉を使っていて、自給率の問題からちょっと論点をずらしていると言っていいかもしれません。

 民主党は、食料の完全自給への取り組みと言っています。ところが中身を見ると、国民が健康に生活していくのに必要な最低限のカロリーは国内ですべて生産する、これを食料自給体制という言い方をしているわけで、これであれば、今の政府の自給率の目標のレベルとそんなに違いのあるものではないと思います。

 公明党はごく短いものですが、農業政策は品目横断的経営安定対策、それから集落営農の組織化、いずれも今政府のとっているものですから、自由民主党と基本的に変わりありません。

 農地制度については、自民党、公明党はそんなに踏み込んだことは言っていませんが、民主党は前から特徴的な主張があって、農地以外の土地利用と、それから農地としての土地利用、このゾーニングをしっかりやりなさいと言っています。これはまっとうな議論だと思います。そこをしっかりすることによって、中の農地の利用については、むしろ参入の門戸を広げましょうと。そういう意味では、農地制度については民主党がやや具体的な書き方になっていると言っていいと思います。

 ただ、面的な集積についてどうするかというようなことは、どの党も踏み込んではいません。これは秋に向けての課題なのだと思います。


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