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「年金・社会保険庁」編 印刷 Eメール

2007年参議院選挙 有識者評価/「年金・社会保険庁」編

西沢和彦(日本総合研究所主任研究員)
にしざわ・かずひこ
profile
1965年東京都生まれ。89年一橋大学社会学部卒業。98年さくら総合研究所(現日本総合研究所)主任研究員を経て、2001年日本総合研究所調査部主任研究員となる。2002年法政大学修士(経済学)。専門分野は社会保障、税・財政。著書に『年金大改革―「先送り」はもう許されない』(日本経済新聞社、2003年)など。
 

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年金問題はその背景の本質論に早く踏み込むべきだ

効率的で永続的な年金制度の再構築こそが急務

 年金問題において何が問われなければいけないのかというと、まず5000万件の不明年金というのは、オペレーションの問題であるということです。ですから今、自民党なり公明党が言っている対策を早く進めることで解決を目指して、その背景にある本質論に早く踏み込んでいくべきだと思います。

 社会保険庁の改革は、社会保険庁叩きが前面に出過ぎているのではないでしょうか。確かに、これまでの年金問題で政治生命を脅かされた政治家から見ると、これほど憎い存在はないかもしれませんし、国民も年金不信や不安が根底にある上に、こういったことをされてはたまらないという思いもあるでしょう。ただ、年金制度自体はなくしてはいけないのであり、その執行機関である組織を解体することはできません。ですから、本来執行機関改革は、社会保障制度が安定的に、便利に、低コストで永続的に維持されるための機関改革であるべきであって、決してバッシングが目的であってはいけないと思います。

 現在の年金制度では、納付したけれども、天引きされたままで、「いつ、幾ら払いました。いつあなたに幾らお支払いします」といったものが一切ないのです。ですから、それを毎年目に見える形で確認しておくシステムを「ねんきん定期便」や「年金手帳」と言ってみたりしているわけです。短いタームで記録を確認し、未然に事故を防ぐのが趣旨ですから、それ自体は歓迎すべきことです。

 今回の選挙で自民党などが主張している「ねんきん定期便」に関しては、今回の記録問題が出る前からもう決まっていました。これ自体は、日本は比較的遅れていると思います。以前にスウェーデンの年金制度が話題になりましたが、スウェーデンでは、銀行口座のような仕組みで、払い込んだ保険料を総残高として記録しています。そして毎年、個人に一年間の保険料支払い済み額と将来の受け取り見込み額をオレンジレターと呼ばれるもので通知しています。日本も年金に対する不信や不安が高まっている中で、この仕組みを一部取り入れようという機運があり、「ねんきん定期便」というものが出てきたのです。

 「ねんきん定期便」が決まったのは、2004年の年金改正のときです。実施時期は安倍首相になってから早められたと思います。これは今回、不明年金問題もあって、「ねんきん定期便」の重要性がより強く認識されたためではないでしょうか。

 一方、「年金手帳」というとき、シンガポールの社会保障が、メディカル・セービング・アカウントといって貯蓄勘定であることが思い浮かびます。国のATMのようなもので払い込んだ保険料残高が自分の通帳に記録されるわけです。

 例えば社会保険庁に行って、ATMのようなものに年金通帳を差し込むと記録が即座に出てくるとか、インターネットで確認できるとかであれば、よりわかりやすいかもしれません。ただ、これを1億3000万人分つくるとなると、システムコストは相当かかると思います。

 社会保険庁6分割を子細に検討しますと、異なる公法人「日本年金機構」と「全国健康保険協会」の創設に伴う年金と健康保険の管轄機関の分離はいいかもしれません。ただ、国税庁への強制徴収の委任については、実効性が乏しいです。なぜなら、強制徴収できるのは、滞納者に悪質性があると判断されたときになりますが、悪質性があると判断するには、企業であれば利益があるのに払わない、個人であれば所得があるのに払わないという事実が必要です。しかし日本年金機構、あるいは今の社会保険庁は、国税や市町村と違って資産を把握し得ず、滞納者の悪質性を判断しにくいのです。

 さらに、日本年金機構の理事長が厚生労働大臣に伺いを立て、厚生労働大臣が承認の意を財務大臣に伝え、財務大臣が国税庁長官に伝えるという意思伝達ルートも問題です。本来債権回収はスピーディーに行わないと、債務者の資産劣化、資産隠しが進んでしまいます。以上のことを考えますと、国税庁に強制徴収を委任することは実効性が乏しいと言わざるを得ないのです。

 社会保険庁改革は、本来、執行機関を便利で、低コストで、確実なものにするため、税と社会保険料の一括徴収を基本として議論し直すべきだと思います。世界を見ても、アメリカ、イギリス、カナダ、イタリア、スウェーデンでは、税と社会保険料を一括徴収していますので、これらの国々の事例に学びながら、日本はこの方向を目指すべきだと思います。この点で、アメリカのように、内国歳入庁が公的年金の保険料を税とともに徴収する歳入庁の方がいいのです。

 

年金制度そのものについては、まず国民年金納付率からいうと、国民年金の保険料が所得にかかわらず定額負担という制度は、執行の難しい制度です。しかも、少子高齢化が進むため、若い世代ほど給付が少なくなって、公的年金の金融商品としての魅力が低下していきます。そうすると、未納問題の解決は、制度改革議論と一体に行うことが不可欠です。

 また、少子高齢化が進む中で、年金財政をどう維持していくかという問題も重要です。2004年の年金制度改正でマクロ経済スライドと保険料水準固定方式が導入されて、財政的には一定程度の進捗を見ましたが、まだまだ不十分な点もあります。

じつは、マクロ経済スライドの仕組みには欠陥もあります。これは安定的な物価上昇と賃金上昇がないと機能しない仕組みなのです。ですから、本来すでに年金財政の計算上では、マクロ経済スライドはスタートしている想定だったのですが、まだスタートできていません。

そのツケはどうなるかというと、将来の世代に回ってしまいます。こういった仕組みのままでいいのか、本来「骨太の方針」でも世代間格差が話題になっているのですから、厳しく問われなければいけません。制度改正を補強していく議論を与党は再度しなければいけませんし、野党はここを問題点として追及しつつ、彼らなりの対案を出さないといけないと思います。

 今回の参院選のマニフェスト(重点政策・公約)を見ると、まず与党側は、今回の不明年金問題が出たことによって、この問題を重点的に取り上げています。不明年金問題は、先述のとおり、オペレーションの問題ですから、すでに打ち出した方向性を粛々と進めれば事態は解消に向かっていくと思います。ですから、本来国政選挙として問われるべきは、より骨太な少子高齢化の中での年金財政問題、年金制度自体のデザインだと思います。

 与党側と野党側に共通して言えることは、年金財政について触れられていないことです。少子高齢化の中で年金財政をどう維持していくのかは、本来民主党も問うべきですが、そこが欠けています。民主党は年金制度のデザインについては、重点を置いて述べています。今の制度とは抜本的に変えて、基礎年金を保険料方式ではなく、税財源にして賄っていくという案を立てているのです。

 ただ、民主党の案にも疑問はあります。例えば現在、消費税で考えると、1%ポイントで2,6兆円の税収です。5パーセントの消費税のうち、1パーセントは地方税で、4パーセントが国税ですが、そのうちさらに約3割が地方交付税に回されるという構造を消費税は持っています。加えて5パーセントの消費税を丸々基礎年金に充てたとしても、12兆数千億円にしかなりません。これですと、現在すでに基礎年金で19兆円ですから、足りない計算になってしまいます。仮に5パーセントのままならば、地方消費税をどうするのか。地方交付税に回している分をどうするのか、さらに、今の基礎年金の水準で足りていない部分をどうするのか、といった財源論に踏み込まざるを得ないわけです。

 民主党は前回のマニフェストでは、消費税を3%増税すると言っていました。そうすれば、ほぼ基礎年金の給付に見合うような水準になってくると思います。与野党ともに、財源の調達に言及していないのは、非常に残念なところです。

医療費の財源をどうするのか 応えていないマニフェスト

 医療問題に関しては、自民、民主両党とも各論を述べている気がしますが、共通して言えるのは、医療サービスの供給拡充を打ち出していることです。ただ、一般会計ベースで見ると、約20兆円の社会保障費のうち10兆円近くが医療費です。国は20数兆円の財政赤字を毎年抱えながら社会保障給付を行っており、医療の最大のネックは、一般会計が財源不足に陥っているが故に、医療費抑制の方向でしか政策が進んでいかないことだと思います。

 今後、少子高齢化の中で財源不足はさらに深刻化していきます。高齢者は若い人の約五倍の医療費がかかりますから、高齢化が進むと、医療費はどうしても膨らんでしまいます。その中で、財政健全化と社会保障、特に医療費の財源を確保しない限り、医療サービスの供給が実効性を持つのは難しいでしょう。両党とも述べている医療サービスの供給、偏在の是正は確かに聞こえはいいのですが、財源的な裏付けのないことが最大の問題だと思います。財政健全化と社会保障財源の確保をどう両立させるか。そこに解を出すのがマニフェストではないでしょうか。例えば消費税を5%増税しますが、医師不足問題への早期の対応、地域医療の再構築をしますので、皆さん賛同してくださいというのがマニフェストだと思います。いいメニューだけを掲げるのであれば誰にでもできます。

 医療の財源というのは、国の一般財源、地方の一般財源、保険料、自己負担の4種類から成っています。全体の30数兆円のうち3分の1が国と地方の税財源という感じです。

 日本の悲劇は、個人ベースで医療給付サービスと医療費負担をリンクして実感できていないことです。保険料負担が重いと文句を言う一方で、医療サービスが足りないと言うのです。したがって、本当は保険集団を小さくして、受益と負担の対応関係を実感しやすくするのがいいと思います。

 保険集団を小さくしているスウェーデンの例では、県ごとに医療保険制度ができていて、住民税のほとんどが医療、介護に使われています。これだと、例えば医療サービスをもっと供給してほしいという住民のニーズがあれば、住民税はそのままダイレクトに上がる形になるわけです。このように受益と負担の対応関係がよりクリアになれば、健康保険料を変更することと得られるサービスの対応関係がわかりやすくなります。

 ところが日本は保険集団が大き過ぎ、また一般財源から補填しているが故に、給付と負担の対応関係が見えにくくなっているのです。それは介護も同様です。国、地方、保険料、自己負担と、いろいろなところからお金を出しているため、かえって給付と負担の対応関係がクリアでないのが、今の日本の特徴だと私は思います。

高齢者医療費の財源をどうするか

 医療制度改革は、安倍政権の中では終わったと思っているのでしょう。2002年に小泉政権下で行われたのは、診療報酬の引き下げと自己負担の引き上げ、そして保険料の引き上げでした。これによって病院側も保険者も患者も、金銭的な負担を負うことになりました。それまでは医師会の抵抗が強くてなかなか診療報酬の引き下げまでに至りませんでした。そこで、本体そのものにも切り込んだのが三方一両損ということでした。

 診療報酬の引き下げは医療費の抑制に、保険料の引き上げは財源手当て・自己負担の増加によって、給付減につながります。医療費は給付と自己負担で構成されていますから、国の給付する割合が小さくなるわけです。

 ただ、当初からずっと言われてきたのは高齢者医療費をどうするかという点です。医療費の約3分の1を占める高齢者医療費は現役の健康保険組合などからの老人保健拠出金で賄われていますが、これが各健保の財政的な負担になっています。高齢化が進み、老人保健拠出金がますます増え、健保の財政は厳しくなるということで幾つかの制度改正案が検討される中で、次期制度改正までに老人の医療費制度についての抜本的な見直しをする附則が2002年の改革時に付きました。

 それが2006年改正の結果として来年4月から後期高齢者医療制度としてスタートしますが、最も批判が集まる部分は、高齢者だけを切り離して独立の保険制度をつくってしまったという点です。リスクの多様な人が入るから保険ができるのであって、リスクが高く支払い能力の低い高齢者だけを取り出して保険集団をつくって、果たして保険なのかという疑問があります。

 もう一つは、後期高齢者医療制度をつくって、現役の健康保険組合から後期高齢者支援金という形で費用を出すことになりましたが、実質的には老人保健拠出金と同じことです。ここからはかなりテクニカルになりますが、老人保健拠出は今まで各健康保険制度の共同事業として運営されており、理屈がありました。ところが、後期高齢者医療制度は全く別に切り離してしまったため、支援金という名前で巨額のお金を出させるというロジック(論法)は、非常に弱いのではないかという指摘があります。本来であれば、税制改正と一体になって高齢者医療制度をどう賄うかといった議論があるはずでしたが、厚生労働省だけで、かつ一般会計の財源制約が厳しい中で行ってしまった高齢者医療制度ですから、支援金という不透明な形で決着してしまいました。

 また、後期高齢者医療制度では、保険料を決定し、徴収し、給付して、保険料があまり上がらないように給付を抑制するという、全体をつかさどる立場である保険者がいません。保険者がいない中で、果たして給付抑制なりが適切に行われていくのかといった懸念もあります。

 今度の参議院選挙で、本来医療問題で問われなければいけない問題は、2006年に改正をしたものの、依然として一般会計に約3分の1の財源を依存し、一般会計が毎年20数兆円の赤字を出しているという構造が全く変わっていないことです。この構造を変えないまま医療サービスの供給のみを前面に出しても、その実効性は乏しいでしょう。したがって、マニフェストでは、医療問題を常に財源とセットにして語らせるべきだと思います。


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