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マニフェスト評価委員による座談会「今、考えるべき経済対策」 報告 印刷 Eメール


出席者:
齊藤誠氏(一橋大学大学院経済学研究科教授)
生源寺眞一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部准教授)


12月17日、言論NPOは都内でマニフェスト評価委員による公開座談会「今、考えるべき経済対策」を開催しました。これは言論NPOが進めているマニフェスト評価作業の一環として行われたもので、日本経済の現状認識と政府がとるべき経済対策、構造改革路線や麻生政権についての評価、次の総選挙で政党が説明すべきことなどについて、2時間半にわたって活発な議論がなされました。

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参加したのは齊藤誠氏(一橋大学大学院経済学研究科教授)、生源寺眞一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部准教授)の3氏で、言論NPO代表の工藤泰志が司会を務めました。



まず工藤から、政府が取り組むべき経済対策は何なのか、また政府が実際に打ち出している経済政策についてどう評価するかという問いかけがありました。



この危機下で政府が取り組むべき課題は何か


これに対して土居氏は、麻生政権の政策は「非常に迷走している感じがある」との見解を示し、場当たり的な政策転換が行われているとしました。財政出動に関してもその実効性に疑問を示し、むしろ「金融政策の余地が大きい」と述べて政府が日銀とより協調した財政・金融政策をとる必要性を指摘しました。そのうえで、日本の景気対策の中心は中間所得層であるべきとし、定額給付などの低所得者向けの対策は景気面の効果に疑問があるばかりか、「全体的な経済対策にはなっていない」と述べました。

 齊藤氏は「今回の金融危機の勃発で明らかになったのは、2002年以降の世界経済の拡大過程のメカニズムが崩れてしまったことだ」との現状認識を示したうえで、マクロ経済対策でパイを拡大することは難しく、財政政策も金融政策も内需拡大に大きな役割を果たすとは考えにくいと述べました。また、小泉政権からの構造改革路線は既得権益の問題に決着をつけていないことを指摘し、労働市場などを例に挙げながら、市場が全体的な構造調整を迫られているなかで経営と雇用の利害が対立するこのような局面においてこそ、「健全な危機意識を持って、利害の調整を政府がやっていくべきではないか」と述べました。


生源寺氏からは、現在の政治は「きちんとしたデザインがなく、パッチワーク(的な政策)がどんどんできている状況」としたうえで、「今の経済は大変な悪路に来ている。毎日の(細かい)政策は必要だが、大きな方向感覚を示すことがほとんどない」と指摘しました。農政についても、「与野党の対立軸というより利益誘導派の声が強く、(政策を)じっくり考えるという声がほとんどない」状況との認識を示しました。



政党が掲げるべき経済政策の目標は


これらの意見を受けて、工藤は「経済危機が進むなかで、政府は何を今、実行すべきか」と問いかけました。

土居氏は「持続可能性」をキーワードとして挙げ、年金や医療といった社会保障分野に触れながら、「持続可能性を担保できる、ないし逸脱しないように政策をつくる」必要性を強調しました。財政再建についても、「努力をするという曖昧な姿勢ではなく、これまでの目標(「骨太の方針2006」)を放棄するのなら、かわりに別の目標を立てて、いずれは財政健全化路線にもどるというのが誠実な態度だ」と述べました。さらに、自民党も民主党も財政健全化政策を打ち出して互いに切磋琢磨していくことが必要だが、そうした議論もなく、「国民の側から議論を喚起する必要がある」と指摘しました。

齊藤氏は、日銀短観のような経営者の感想というデーターだけから悲観的になるのではなく、円高によって交易条件が非常に良くなるといった「ポジティブな面も見ることが重要」であり、「様々な側面を丁寧に見ながら、ポジティブな側面を活かしていく」必要性を強調しました。また社会保障財源として消費税の増税は必要としながら、そのまえに政府として実行すべき問題があると指摘。「健全な危機感」を背景に納税者番号の整備など国民が公正だと思えるプラン、市民として社会のあり方を考えられるような政策を有権者に問えば、自己負担は増えるが社会の不公平感がなくなるということで、受け入れる人はたくさんいると指摘しました。

生源寺氏はWTO交渉を例に出しながら、「(今の政治には)当事者感覚がほとんどなく、どういったぎりぎりの妥協で活路を切り開くのかという真剣な議論がない」とし、「(政策の)選択肢と、それが国民や消費者、農業の強化といった観点からどのような利害があるのかを国民全体に問いかけることが重要」としました。また齊藤氏の「ポジティブな面への注目」という点に関して、食品産業は利益率が低いものの安定している点に触れて、安全・安心な食料の供給を「どのように持続可能なものにしていくのかという提案があっていい」と述べました。


構造改革の方向は間違ったのか

さらに工藤は、「小泉政権からの構造改革の流れが骨抜きになり始めているが、これをどのように総括すればいいのか」「歳出・歳入一体改革と行政改革と今、政府で行われていることとの政策的なのつながりが見えなく、PDCAが動いていない」として、参加者に意見を求めました。

土居氏は、自身が参加した福田政権下での「ムダゼロ会議(行政支出総点検会議)」に触れて、「行政府内部に絶えず無駄なものに目を光らせる組織や会議があると、国民も自助努力をしていると考え、政府を信頼するのではないか」という思惑が政府にあったことを指摘しました。また構造改革については、「現在の格差はすべて小泉(構造)改革のせい」というマスコミの報道にも問題があるが、「国民が評価している構造改革の長所を浮き彫りにするような研究や報道、政策形成のアイデアが出てくれば、構造改革もネガティブなものではなかったということになるのではないか」と述べました。

齊藤氏も構造改革について、「方向性は全く間違っていなかったが、手続きの面ではかなり荒っぽかった」と述べ、非正規雇用に関する規制緩和の一方で正規雇用労働者の権利には手をつけなかったこと、消費税増税の前に公平に徴税する仕組みを議論しなかったことなどを指摘しました。そのうえで、「官が撤退することが仕方ないのであれば、民の方の受け皿を政府が考えたかというと、その形跡はない」として、欧米では民間からの寄付が社会保障を支えていることを紹介し、「お金が公的な方向に流れていくチャンネルを作ったのかといった、真心というか丁寧さ、用意周到さがある政策によって、構造改革の目標を達成するという仕組みがないといけない」と述べました。

工藤は生源寺氏に対して、構造改革の評価に加えて総選挙を控えて与野党が農家へのばら撒きを競い合う状況と、日本がFTAに取り組むメリットなどについて、政党はどのように政策として国民に提案すればいいのかと問いかけました。

これに対して生源寺氏は、全ての政策には様々な目的や効果があり、イメージで政策を訴えるのは難しい時代になっていることを指摘し、政党はそれを「選択肢として国民に丁寧に説明し、国民の判断を問うべき、であると述べました。農政のばら撒きの競争に関しても、農業の問題や農村に限らず、都会や消費者、生産者など様々な人がこの判断に参加できるはずだか、これからの農業をどうするか、を国民が理解したうえでの選択の問題とはなっていないことを指摘しました。また、与野党のマニフェストにも、国民からすれば双方にメリットやデメリットがあるにもかかわらず、こちらのマニフェストはすべて良くて相手のマニフェストはすべて悪いといった「粗雑な議論をするから(議論が)劣化してしまう」と述べました。


なぜ改革は進まないのか

工藤はさらにこういったきめ細かな政策を日本の政府・政党が国民に提案できず、健全な危機感を継続させながら、改革を動かすことができない理由は何なのか、と問いかけました。

これに対して土居氏は、「小泉内閣の改革の推進力は、基本的に官僚不信・公的部門不信という国民の意識に乗ったものだった」と述べ、公的部門が大きなウェイトを占める社会保障分野においてもその意識に付け込んだ乱暴な議論が通りやすかったことを指摘しました。また構造改革に関しては、「小さな政府」に何を求めるかということを人々が整理できておらず、与野党も議論の整理ができないことと、自民党内での「上げ潮派」・「財政再建派」・「ばら撒き派」のバランスが政権の移り変わりごとに変わっていったことが、政策の変更につながっているといいう見解を示しました。最後に、「歳出カットに関しては(政策が)場当たり的になっている」と述べ、残された課題はより体系立った歳出削減政策の実施であるとしました。


この後に議論は会場の参加者との質疑応答に入りました。


言論NPOのマニフェスト評価委員の田中弥生氏からは、構造改革に伴う民間の側の受け皿の整備や公共心をもった市民の役割の重要性が指摘されましたが、齊藤氏からは、「(民が)そういった意思表明をしやすい仕組みや環境を政府がうまく整備することが、予算をどれだけ分捕るかといったことより重要ではないか」という意見が出されました。


また、政府の政策をよりきめ細かいものにしていくための方策も議論されました。土居氏は政策決定過程の公開性にふれ、「諮問会議の議論の公開は意思決定がどう動きかを国民に判断できる環境に大きく貢献したが、意思決定の場はこの諮問会議から与党や党の部会などにも移っている。こうした舞台の公開を迫っていくことは、少なくとも政策がきめ細かなものになる一助にはなる」と述べました。

また齊藤氏からは、政策形成過程に有識者や官僚が絡むことできめ細かさがなくなってしまうことを指摘し、現在の前例のない問題の解決に際しては「行政が全部お膳立てする現在の仕組みは、問題の大きさを考えても難しい。専門家を集め、実践も任せたり、また民間側にこの言論NPOなどのようにプロが報酬なしで問題解決に関わり、必要な金はパブリックからの注入や寄付で賄うと仕組みが必要だと思う」という意見が出されました。




麻生政権の今をどう評価するか

最後に工藤は、「麻生政権の今をどのように評価しているか、また次の総選挙で政党は国民に対して何を説明するべきなのか」と問いかけました。

これに対して土居氏は、「経済政策はメチャクチャだが、むしろこれだけ無茶な政策をやることで、国民にも危機意識が生まれるのではないか」と突き放した見解を示しました。また次の選挙に関しては、財政健全化と経済成長と格差是正がポイントになるとして、「どのような政策をどういう方法でどれくらいやるのか、単なる政策の羅列ではなく政策体系が重要であり、体系だった政策を各党はマニフェストで示してほしい」と述べました。

齊藤氏は「国会の言論の力を取り戻してほしい」と述べ、金融危機に際してアメリカでは緊張感をもった議論で政策の説明責任を果たそうとしていることと比較しながら、日本でも過去の財政出動や金融緩和の失敗を徹底的に議論し、「政策の決定に後悔しないようにしてほしい、今のやり方だと失敗したらどうしようもない後悔を生む」と述べました。そしてそれによって「政治に緊張感が生まれ、与野党が懸命に取り組む姿が国民の政治への意識を高める」としました。

そして最後に政府・労働組合・経営者・金融機関などにそういった覚悟が全く見えないことを批判し、「国民一人ひとりが耐え難い痛みを引き受けなければいけない時に、それに立ち向かう気持ちを政治が少しでも言葉と態度で示すことが重要だと思う」と結びました。

言論NPOは今後も、こうしたマニフェスト評価活動を順次開催していきます。また、この座談会の議事録は、後日言論NPOのホームページで公開する予定です。


文責: インターン 水口智(東京大学)