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民主党マニフェストにおける外交・安全保障分野の柱は、「緊密で対等な日米関係を築く」「東アジア共同体の構築を目指し、アジア外交を強化する」「北朝鮮の核保有を認めない」「世界の平和と繁栄を実現する」「核兵器廃絶の先頭に立ち、テロの脅威を除去する」という5つの柱から成っている。その中で特徴的なものは、以下の3点である。
①【緊密で対等な日米関係の構築】日米関係について、「緊密で対等な日米同盟関係をつくるために「主体的な外交戦略を構築」し、米国との間で「FTA交渉の促進」「日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」としたこと
②【アジア外交の重視】アジア外交の強化については「東アジア共同体の構築」を提唱し、中国・韓国をはじめとするアジア諸国との信頼関係の構築や、アジア太平洋諸国との域内協力体制の確立、FTAやEPAの推進を盛り込んだこと
③【グローバル・アジェンダへの積極的関与】地球規模課題の解決に向けては、地球温暖化対策や核廃絶に向けた取り組みのほか、国連を重視した世界平和の構築のために国連改革の主導を打ち出したこと。また、テロ脅威対策の新戦略として、5年間で最大50億ドルの対アフガニスタン支援策を表明したこと
ここでは、主としてこの3点について、これらの外交・安全保障上の課題解決に向けて基本方針の策定や政策設計が実際になされたかどうか、それに基づいた措置や対外交渉がどう動いたかを評価する。
■実績評価(16点/40点)
民主党マニフェストでは、米国との「緊密で対等な関係」をつくるために「主体的な外交戦略を構築」することが掲げられていた。しかしその検討がなされた形跡はなく、実質的な進展はゼロである。普天間基地移設問題では「県外」という首相の約束は実現せず、度重なる発言の変化によって地元自治体や米側との間で信頼関係を大きく損ね、今や普天間基地の移転先に関する地元合意も失われている。普天間基地の移設をいつ実現できるのか先行きは見えず、8月末までの具体的構想の取りまとめは予断を許さない状況である。これでは、課題解決に向けた進展どころか、大幅な後退とすら言える。また、日米地位協定の改定については未だ日本側から米側に提起された形跡はない。アジア外交を重視する姿勢は評価すべき点ではあるが、前首相が強調した「東アジア共同体」についても、その具体像やロードマップ、具体的な政策手段が描かれているわけではない。アジア各国との合意事項も極めて大まかなものであり、実質的な協力内容の策定は今後の交渉にゆだねられている。グローバルアジェンダへの積極的な関与の面では、ハイチ大地震において自衛隊派遣を行い、アフガニスタンに対して50億ドルにのぼるを実施するなど、形式上評価できる動きは多い。ただ、後者については意思決定に至る検討プロセスに関する情報も援助の成果に関する評価基準も不透明な以上、高い評価を与えることは困難である。
■実行過程(0点/30点)
普天間移設問題では、過去の日米両政府の合意の経緯すら検証しないまま、場当たり的に思いつきの案を持ち出しては撤回するという事態が連続して見受けられた。鳩山前首相は繰り返し「最低でも県外」と公言していたにもかかわらず、これが実現できなかった以上、国民との約束を軸としたプロセスは破たんしている。また、同問題に関する日米共同声明と閣議決定はなされたが、前首相は日米合意を優先させた結果、辺野古移設に反対する連立与党の社民党との間で亀裂が現実化した。結果として、約束を守ろうとした社民党が連立を離脱し、連立の矛盾が露呈した形となった。
■説明責任(0点/30点)
鳩山前政権が国際社会でいかなる価値の実現を目指そうとしているのかについては所信表明等で説明されているが、いずれも抽象的であり、「主体的な外交戦略」や「東アジア共同体」について、具体的な説明がなされていない。また、「対等な日米同盟関係」が単なるスローガンでないとすれば、具体的なビジョンや政策について説明するべきだが、それが正式に表明された形跡はない。米軍普天間基地移設をめぐる交渉でも、鳩山前首相が述べるのは個人的な「思い」だけで、どのような戦略を構想しているのか、なぜ在日米軍が必要なのかという安全保障戦略に関して国民に対して責任感を持って説明がなされたことはなかった。この問題では岡田外相、北澤防衛相も自民党政権下の日米合意の見直しを主張していたが、結局それが唯一実現可能な案との見解に転向している。なぜそのような見解に至ったかについて明確な説明は両氏からもなされず、総じて政権全体として重要な外交政策アジェンダについて説明責任を果たしたとは評価できない。