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参院選マニフェストの読み方について(農業) 印刷 Eメール

生源寺眞一
(東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長)
1976年東京大学農学部卒業後、農林省農事試験場研究員、農林水産省北海道農業試験場研究員を経て、87年東京大学農学部助教授、96年同教授。これまでに日本フードシステム学会会長、農村計画学会会長を務める。主な著書に『農業再建:真価問われる日本の農政』(岩波書店)など。



 

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工藤: 生源寺先生、こんにちは。今回は農業政策の実績評価、マニフェスト評価にご協力いただき、ありがとうございました。さて、農業政策のマニフェスト評価は民主党が14点、自民党が22点と、ともに低い結果となりました。今日は、なぜ農政のマニフェストがこれほどまでに低いのか、特に民主党が低い理由は何だったのかについてお聞きしたいと思います。

生源寺: 民主党は前回(衆院選時)もそうでしたが、要するにキャッチコピーのようなことを書いてあるのですが中身がほとんど見えてきません。それから、本来多くの課題があるはずですが、いくつかピックアップされているものについて、それがなぜ重要なのかよくわからないということがあり、そもそもマニフェストの体をなしていないというのが率直な印象でした。それから、食の安全など、前回掲げられた項目がばっさりなくなっていて、一部だけが残っています。つまり、前回と比べて今回はどうか、ということも実は評価の視点として大事だと思います。
 そういう意味でいいますと、食の安全の部分が非常に細くなりました。もう一つの目玉は戸別所得補償です。これは、掲げたものをきちんとやっているかどうかということもありますが、そもそも戸別所得補償という制度自体がいいものかどうか、という両面から評価する必要があると思います。まず、前回のマニフェストでは行程表も財源も明記されていました。しかし今回は、それが一切なくなりました。

工藤: そうですよね。本格実施は先送りされたように見えますが、どうなっているのでしょう。

生源寺: 語尾をみると微妙な書き方しています。前回は何年までに一応4000億とか掲げられていましたが、これは全部消えてしまいました。これは形式的といいますか、掲げたことをやるという意味では全部しぼんでしまった、後退しているという意味では評価できません。

工藤: そういう場合は、説明責任を問われますよね。

生源寺: そうですね、マニフェストだからだらだらと書くことはできないかもしれませんが、そうだとしたら、裏付けとなるようなきちんとした積み上げた仕事があると思うのですが、それが感じられません。それから、前回はある程度細かく書いてあったのですが、今回ばっさり削られた部分については、「やりましたよ」とそういうパーツに移っています。そういう項目が2つあったと思います。1つは戸別所得補償です。これは米でやったという点では、やるといったことはやったという評価はできると思います。もう1つの項目である口蹄疫の取り組みについては、首をかしげざるを得ません。ある意味自画自賛的に初めてこれをやったとか書かれていますが、まだ沈静化する目途がたってない状況下で、しかも初動の遅れが指摘されてもいるわけです。それから赤松大臣が再任を希望されなかった要因であるとも言われていますよね。これも検証が必要だと思います。こういうことを政争の具にすべきではないと思いますけど、しかし、実績として胸を張るというのはやや神経を疑うところはあります。ですから、若干減点材料ということも言えます。

工藤: 戸別所得補償政策は、期限がいつになるかわかりませんが、しかし動かしていますよね。これはどう判断すればよろしいでしょうか。

生源寺: ここは非常に難しいところなのですが、わたくしなりの評価を申し上げます。まず米について先行導入したことは、むしろ前倒しで行なったわけですから、この点はある意味で評価できるわけです。これから麦や大豆、あるいは畜産や酪農に広げていくという言い方になっていますが、実は米については一般の作物や一般の畜産とかとは違うわけです。つまり過剰で頭を悩ませていたところはありますし、値下がりのテンポはやや急でした。お米は品目としてやや特殊なものです。戸別所得補償という表現を使うかどうかは別として、民主党のやったことは選択的な生産調整、民主党は需給調整という言い方をしていますけど、これに参加した人に対する給付です。こういう風に考えれば、ある意味では合理的な政策だと思います。ですから私は、選択的な生産調整に踏み切ったことも含めて、ここは評価していいと思っています。米はそういう事情がありますので、元農水大臣の石破さんも同じことを考えていたと思います。そういう意味では、民主党にきつい言い方になりますけど、米だけであれば果たして民主党の独自性が出されたかどうかということはあります。ただ、民主党が生産調整の形を変えたという点では評価しています。
 問題はその次です。麦とか大豆、酪農と言っていますけど、その分野に民主党なりに踏み込んでいくことで初めて、石破さんの路線とは違う意味合いが出てくると思いますが、それがしぼんでしまいました。やるんだ、やるんだといっておきながら、そこがしぼんでしまったことが減点材料です。

工藤: では、自民党はどうでしょうか。

生源寺: 自民党は民主党とは対照的に、ある意味で非常に細かな政策を列挙しています。私は専門じゃないので、細かなことは評価できませんが、漁業とかたくさんのことが書かれています。農業もたくさんのことが書かれていて、その点は少なくとも民主党よりはわかる形になっているかなという気がします。ただ書いたものを読んでみると、我々専門的な立場の人間にはわかるのですが、一般の国民には非常にわかりにくい。ちょっと細部に踏み込みすぎているという言い方ができると思います。これは誰に向けたメッセージかというと、農業関係者という風に読めてしまうわけです。そういう意味で言いますと、国民に対して信を問うためには、農業村の中の議論であっては困るわけです。全体として、この国でどういう農業、農政にしていくのか。そういうタイプのマニフェストになっているかというとここはちょっと弱い。個別にいろいろなことを書いてますけど、その中のあるものはですね、JA(全国農業協同組合連合会)が6月に政策提言を発表しているのですが、かなり重なっています。農協が独自に政策提言を行うのはあっていいことだと思いますが、それと政権党を目指す自民党のマニフェストは別のものだろうと。この辺の姿勢と言いますか、そこはクエスチョンマークです。

工藤: 今度の選挙ですが、本来日本の農業に何が問われていたのでしょうか。農業といいますと、最近の議論ではばらまきばかりしているのではないかと思っている人は結構多い。結局、日本の水田農業も含めて、いろんな状況下で深刻な問題が多々あると思うのですが、今回の選挙で何が問われていて、有権者はその政治が語っていることをどう判断していけばいいのでしょうか。

生源寺: わかりやすく言えば、10年後の農業、農村の形について はっきりとしたビジョンを打ち出しているかどうか、ということだと思います。具体的にいいますと40年間本当に苦しい思いをしてきているコメの生産調整、これをどうすんだということがあるわけです。米の値段をどうするかという話ではなくて、5年後、10年後にこのまま生産調整というものを続けていくのか、いやいや段階的にこれをなくしていくのか。このあたりの展望を示しているのかどうかということだと思います。
 もっと大事なのは10年後に日本の農業、地域の農業を支える人、支える組織、これをしっかり作っていけるかどうか、これは本当に危機的な状況です。そこについて何らかのビジョンがあって、このビジョンを実現するにはこういう政策が必要です。当面は財源の負担は必要かもしれないけど、いずれいい形の農業、つやのある農業になって国民の下に利益が戻ってくるようなシナリオがきちんと書けているかどうかだと思います。

工藤: 今の民主党の戸別所得補償があったわけですが、かなりお金がかかっているわけです。いつまで続くのか、永続的に続くのかというのはありますよね。お年寄りが水田農業をやっていますが、苦労をしても担い手がいないとなると、その人たちにお金を出して担い手が増えていくという補償があるのかとか、そういうのはどうなのでしょうか。

生源寺: ここはですね、民主党の戸別所得補償政策は、ある意味で、小規模農家も維持できるし、担い手側についてもサポートしますと、両方にいい顔をしすぎのところがあって、どうもそこのところはっきりしないわけです。
実は、民主党は総選挙前の参議院選挙で戸別所得補償政策を打ち出したのですが、規模加算というのも書いてありました。今回消えてしまいましが、そのあたりがあれば5年後、10年後のことを考えているなとわかるのですが、後退している感じがします。

工藤: 未来という点でいえば、自民党の案は未来に対する大きなメッセージはあるのでしょうか。

生源寺: かなり総和的でいろんなことが書いてあり、農家の方であればピンとくるようなことも書いてあります。しかし、さて5年後、10年後のことを考えているかというとはっきりしないわけです。

工藤: どうしてそういうのを出さないのでしょうか。というのも、自民党の場合は前の政権の時は、攻めの農業ということでかなりいろんな農業の計画が動いてましたよね。

生源寺: その辺は表現を読んでいると微妙です。ある意味どちらにもいい顔をしているだろうというところはあって。やはり自民党は前の参議院選挙のあと、大敗しましたよね、そのあと民主党のアジェンダ設定に引きずられて、あまねく農家に対していろんな形で支えるということを発信して、そこから脱皮できていません。
 それで気になるのはマニフェストの一番最初に、農業のため池機能に着目して新しい直接支払いというものを書いています。これ必ずしも具体的な方法ではないのですが、農協の政策提案に仮に重なるものであるとすれば、農地であればみんなお金もらえますといった形になりかねません。これは一つの考え方かもしれないですけど、今の厳しい財源の状況下で、農地であればお金がもらえるというシステムが国民、納税者の立場からみて、受け入れられるかどうか。

工藤: 今回の民主党や自民党、他の政党もそうですが、農業というのは生産者だけではありません。消費者、納税者みんなにとって農業をどう考えるべきかという問題提起が非常に薄いのは非常に残念ですよね。

生源寺: どちらも農業、農村向けのメッセージになっているところはあります。民主党も今回、マニフェストそのものがはっきりしませんが、基本的にはそうですよね。これは5年後、10年後を考えているとそれこそ不幸なことになると思います。農村の人からすると農地を持っていれば何か知らないけどお金が入ってくる。都市部の人たちはこれをどう考えているのか。農業政策というのは何なんだ、という話になる不幸な対立につながりかねません。農業、農村を大事にするという気持ちはわかりますが、それが逆に裏目に出てしまう。こういうこともあると思います。

工藤: 今回の選挙は、有権者からみると日本の農業の未来がちゃんと説明されているのか。党のマニフェストは本当にダメなので、候補者が自分の選挙区でそういうことをちゃんと語れるかどうかを見抜くことが重要かもしれませんね。

生源寺: それと農業のことを語るのももちろん大事ですが、農家の利害だけにとどまるような言説であるとすると、クエスチョンマークがつきますね。それに、結局農業、農家のためにもならないと思います。

工藤: わかりました。今回は厳しい視点で日本の農業の未来も含めて私たちは考えなければならないと思います。

生源寺:  そうですね、これは待ったなしだと思いますよ。

工藤: 今日は、東京大学農学部長の生源寺先生のところに伺いました。どうもありがとうございました。

 

参院選マニフェストの読み方について
(農業)-1-

生源寺眞一氏
(東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長)
聞き手:工藤泰志(言論NPO代表)

 


 

 

参院選マニフェストの読み方について
(農業)-2-

生源寺眞一氏
(東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長)
聞き手:工藤泰志(言論NPO代表)