第1回マニフェストフォーラム 印刷

 言論NPOは「第1回マニフェストフォーラム」を開催、民主党のネクスト大臣の4人の議員に、マニフェスト評価委員4人が本格的な政策論議を迫る。

 

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7月14日、都内の日本財団ビルにて、民主党と言論NPOのマニフェスト評価委員が政策論議を行う「マニフェストフォーラム」が開催されました。

 民主党からは、筒井信隆衆議院議員(ネクスト農林水産大臣)、中川正春衆議院議員(ネクスト財務大臣)、古川元久衆議院議員(年金調査会長)、山田正彦衆議院議員(ネクスト厚生労働大臣)の4議員が出席しました。

また、言論NPOマニフェスト評価委員からは、齊藤誠氏(一橋大学大学院経済学研究科教授)、生源寺眞一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、 土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部准教授)、西沢和彦氏(日本総合研究所主任研究員)の4氏が出席し、農業・財政・社会保障・年金といった各分野の民主党 の政策について、活発な議論を交わしました。司会は言論NPO代表の工藤泰志が務め、議論はインターネットでもリアルタイムで中継されました。

まず冒頭で代表工藤が挨拶し、「今回のフォーラムは言論NPOによる評価作業の一環であり、この評価議論の内容を公開して、一般の方の意見を反映させな がら作業を行いたい」と説明しました。さらに、最初に民主党を選んだ理由として、言論NPOが6月に実施したアンケートの結果に触れながら、「民主党への 政権交代を支持するのは40%いるのにも関わらず、そのうちの半数が民主党の政策を支持していない。政策本位の政治を考える場合、この事態は問題であり、 このフォーラムを契機に民主党の政策に評価に取り組みたい」と述べました。そして各議員に対して、「先の選挙で民主党が提案したマニフェストと、それの内 容が選挙の後にどう展開をしたのか、さらに次の選挙ではこの分野で何を国民に約束をするつもりなのか」を説明するよう求めました。

 これに対して、年金・社会保障・財政・農業の順に、各分野を担当する民主党のネクスト大臣から民主党の現在の政策について説明がありました。

民主党の年金政策

 まず民主党年金調査会長の古川議員が民主党の年金政策について、「現在の年金制度は国民の信頼を失っている。年金制度に対する国民の信頼を回復す るために、今の不公平な年金制度を公平な制度にする、納得できない年金制度を納得できるものにするというスローガンのもとに、新しい制度を提案した」と述 べました。そして、民主党の新しい年金制度はスウェーデン方式をもとにしており、所得比例年金がベースとなって、所得比例年金が低い人には税金で賄われる 最低保障年金を付加していくかたちである。現行制度との最大の違いは「保険料と税を水割りにするか、それとも別々のグラスにするかであり、保険料だけでは 足りない人にはもう一個グラスを足して税金を注ぐ点である」とし、「現行制度は保険料と年金が水割りになっており、給付と負担の関係がわかりにくい」とし ました。

 そして、「民主党案は税方式との声があるが、基本は保険方式である。同じ税でも水割りの中の税金の額を増やすという現行制度を前提とした(自民党 の)税方式と、保険料と税をはっきりと分けて保険料の少ない人には税による分を付加するというわれわれの制度は、似て非なるものだ」と強調しました。その うえで、年金制度だけでなく、国税庁を再編成した歳入庁という役所で税と社会保険料を一括して徴収する制度に変更することも、民主党案の重要な点であると しました。

後期高齢者医療制度への判断と医療政策

  続いて、ネクスト厚生労働大臣の山田議員が医療政策について説明しました。このなかで山田議員は、「民主党の対案としては、とりあえず(後期高齢者医療制 度を)廃止してもとに戻す。そのうえで将来的に(民主党が)政権をとれたら、医療保険制度の一元化を目指す」とし、所得と負担の格差が大きい現行のさまざ まな保険制度を一元化して、歳入庁が徴収し各都道府県が給付する制度への転換を検討していると述べました。そして医師不足の問題については、法テラス制度 (国民向けの法的支援を行う機関)をモデルとした「医療テラス」制度で医師を僻地に派遣する制度を作り、地域の崩壊しつつある市民病院などを立て直したい と述べ、また介護保険制度についても抜本的な見直しを検討しているとし、「社会保障制度全体に対して思い切った予算を出すために、いろいろな検討をしてい る」と説明しました。

「プライマリーバランス」と増税について

 さらに、ネクスト財務大臣の中川議員が財政政策について、「プライマリー・バランスは2011年度までに黒字化することを前提としている」とした うえで、予算機能転換法案と租特透明化法案という二つの法案を用意した。前者については、財源確保のために税金の無駄使いを徹底的になくしていくととも に、公共事業に使われていた農業の補助金を戸別所得補償に回すなど、「今までの税金の機能を転換していくことを提案した」とし、同時に「(税金の)機能を 転換するなら政策評価を徹底的に行わなければならない」としました。後者に関しても、現行の租税特別措置法における個別措置の効果や必要性をチェックし、 本当に役に立っているかを明らかにすることが目的であるとしました。そのうえで、こうしたことを通じて「税金に対する国民の信頼を取り戻し、それでも足り ない分については、ラスト・リゾートとして増税を検討することになる」と述べました。

農家へ一兆円の所得保障を行う理由

 最後に、ネクスト農林水産大臣の筒井議員が農業政策を説明しました。まず議員は日本の農林漁業の重要性はこれから再評価されていくとしたうえで、 農業には多面的な機能があることも農業の特徴であり、「この多面的な機能への対価ほんの一部として(農家に)所得保障をするという位置づけをしている」と し、さらに「農林漁業においては産業政策と社会政策を完全に分離するべきではなく、これは産業政策でもあり社会政策でもあるという位置づけをしている」と 説明しました。「所得保障は平均的な生産費と平均的な販売価格の差額を支給するもので、生産費の高騰や販売価格の低下に体系的に対応できる制度作りであ る」と述べ、その上で、現行の農業には様々な補助金制度があるが、その複雑な仕組みを体系化して、ここに組み込んでより分かりやすいものにするものであっ て、現行制度の上に新たに1兆円を付加するものではないと説明しました。

マニフェスト評価委員との討論

 続いて、各政策分野ごとにネクスト大臣とマニフェスト評価委員の議論が行われました。

 まず年金について西沢氏が「年金政策の評価のベンチマークは3点あり、持続可能性と制度体系と執行体制である」としたうえで、少子高齢化の中で制 度の持続性を確保できるのか、また制度体系については、税と保険料が区別できないことによる不公平感や、制度の一元化がなされていないことによって雇用の 流動化への対応に遅れが存在すること、さらに民主党は岡田克也議員が党首だった時期に基礎年金に基づく税方式を民主党は主張していたが、今はスウェーデン の所得比例年金方式を前提としている。そう主張を変えるのであれば国民にその理由の説明が必要なことを指摘し、最後に執行体制の強化、すなわち徴収の一元 化と、そこに市町村税の徴収も組み込むべきことも重要な点である、と指摘しました。

 これに対して古川議員は、「役人や学者のソロバン勘定で(数字が)合うことと、国民感情として(年金制度に)納得できるかは別であり、若い人が制 度を信頼せずに振り込まないとソロバン勘定が追い付かなくなる。厚労省の試算では持続可能だが、(保険料が)入ってこないから足りなくなる。だからこそ国 民からの信頼回復が大前提であると考えている」と述べました。また岡田元党首の時期からの民主党の変化については、党内でのコンセンサスが得られなかった 経緯を詳しく説明しました。

 さらに西沢氏は、「スウェーデンのような高負担・高福祉の国のモデルを日本という低負担の国に導入できるのか。また移民の問題や女性の就労率の低 さといった前提の違いの問題を乗り越えられるのか」と問いかけました。これに対して古川議員は「年金制度だけですべてを解決しようという考え方が年金制度 をわかりにくくしている」と指摘し、「制度をシンプルに、わかりやすくして国民の信頼を得たうえで、別の政策として少子化や就労率、移民の問題などをトー タルに考えていく必要がある」と答えました。


 つぎに、農業政策について生源寺氏が意見を述べました。そのなかで生源寺氏は、「この先10年後の農業の担い手の像をどう描くかが問題である」な どと指摘するとともに、「戸別補償政策は非常に古いタイプの議論で、今までさんざんやってきて問題がある方式に戻るとの印象がある」、「産業政策と社会政 策は基本的に分ける必要がある」などと民主党の政策の組み立てに疑問を投げかけ、「民主党の政策は目的と手段を履き違えている。(戸別補償政策という)ス キームが成り立つのかどうか、非常に疑問だ」と述べました。

 これに対して筒井氏は、「以前は行政が配分していたのであって、以前やっていたことを別の形でやるのだから、機能しないとは思わない」などと反論しましたが、ここでは制限時間一杯まで生源寺評価委員との間で厳しい議論の展開が行われました。

 さらに、財政再策について土居氏が発言しました。土居氏は「民主党の政策が信頼されていない理由は、端的にいえば財政政策が、ビルドの項目に関し ては具体的だがスクラップする項目については抽象的なことについて国民の不安が大きいことにあるのではないか。スクラップについて小泉政権より踏み込んだ 案があるなら聞かせてほしい」と指摘し、そのうえで「2011年までにどのくらいの歳出削減ができるのか、幅があってもいいから具体的な金額を示してほし い」と述べました。

 中川議員はこれに対して、スクラップする「本命は特別会計と独立行政法人だと思っている」と答えるとともに、「補助金や税の減免が本当に機能して いるのか、ここはブラックボックスで外から攻めるのは難しく、だから政権をとって点検させてほしい。ここを見直せば財源が出てくるし、そのような財政の機 能転換の仕組みが機能すればいいはずだ。参院選に際して15.3兆円の財源論が一人歩きしたが、そこをこれからしっかりと組み立てていきたい」と答えまし た。


また齊藤氏もこの問題に関してコメントし、「(民主党の政策は)徹底的に無駄使いを削減して、足りない部分は税で、ということになるが、そういう ものの整理ということと、税制基盤をしっかりさせることは別々に分けてやっていけばいいのに、埋蔵金や特別会計の話も含めて、非常に話が見えにくい」と指 摘しました。
 

政治との対話に関する総括

 ここで議論が一巡し、代表工藤は会場やインターネット参加者からの同時進行のアンケートをもとに、「農業や財政に民主党の説明に納得できない人が 多い、さらに議論を進めたい」とした上で、「プライマリー・バランスをどう実現するのか」という問いが提起され、土居氏からも「民主党として、どのような 税制体系を考えているのか」という疑問が出されました。さらに西沢氏が後期高齢者医療制度に触れながら、「民主党の政策で一番煮詰まっていないのは医療制 度だと思う。廃止法案のあとのオルタナティブがないのはどうなのか」などと指摘しながら、もっとブラッシュアップした提案をするよう求めました。

 これらに対して中川議員は、「プライマリー・バランスについては、①歳出削減などでキャップを設ける、②個別の政策について税が生きているかを検 証して無駄なものはやめるというメカニズムを組み込む、という2つの方式があるとし、①では弱者に確実にしわ寄せが行く」としました。医療については、 「保険制度はリスク分散であり、リスクの多い75歳以上を別保険にしようとすると、将来的な世代間対立の種をまくことになり、政治的に間違ったやり方だと 思う。一元化した制度でやっていくことが必要だ」と答えました。

 さらに工藤が「プライマリーバランス実現後も含めて財政再建の道筋はまだ党として固まっていないのではないか」と問うと、中川議員は「その次はまだ固まっていない」」と語りました。

 さらに山田氏は食料安全保障という観点から農業の問題に触れ、「世界的な食料危機の際にアメリカが輸出を止めれば日本は大パニックになる。このた めに食料の安全保障にお金をかけるのは大変大事だ」と述べ、「農業に1兆円のお金を使うことに国民の納得が得られないとは思わない」と主張しました。

 これに対して生源寺氏は、まず財源をどこから捻出するかという点に疑問を呈すとともに、「資源の投入を否定するわけではなく、持続性の議論が必 要」と指摘しました。筒井議員はこれに対し、「所得保障によって農業で食べていけるという状況を作れば、都会のフリーターや定年退職者も地方に回り、農業 は持続可能になる」と応じました。


最後に山田議員と各パネリストがこの日の議論を総括しました。

 この中でまず齋藤氏は、農業分野に関する議論の流れを受け、「穀物価格の高騰により食料需給が危ぶまれている」と考えられがちな状況に疑問を投げ かけ、農業が「農産物の実質価格が上がれば生産者が供給を増やし、また安全安心を求める国民もそれを買う」というメカニズムが働きにくい産業になっている 現状こそが問題であると述べ、所得補償制度はそのようなメカニズムを壊すことになるとしました。

 さらに社会保障の議論と関連して、高齢者全体を弱者と見るのではなく、そこには資産や所得の大きな格差があり、高齢者世代の中での再分配をもう少し考えれば、若者世代にとっても受け入れやすい制度が構築できるとしました。


続いて土居氏は「民主党の、市場原理に対する危機感がそれほど強くないことに安心した」と述べたうえで、権力ができるだけ介入しないようなかたちで調整が行われる制度づくりが重要だと語りました。

 続く西沢氏は、「無駄を排除してから増税、まずは国民の信頼を取り戻してから」という民主党の論理について、それでは政策体系はなかなか見えてこ ないのであり、そこはマニフェストを評価する側としても考えるべき点だとしました。農業政策の議論に関しては、「戸別所得補償は農家の優遇ではなく、食料 安全保障、食の安全と言う全国民共通の課題に関わる政策だ」という民主党の主張に理解を示したものの、他方で、がんばる者に対するインセンティブをそぐ懸 念があるなど、まだ詰めきれていない点が多いのではないかと指摘しました。

 生源寺氏はこれを受けて「民主党の政策には『完全自給』など、言い回しが先行している部分がかなりあるのではないか。言葉でアピールする前に、 もっと中身について柔軟に検討する余地はあるのではないか」と述べました。さらに、農業・食料政策は経済政策としての意味合いが強いため、ある程度財政で 負担することには意味はあるものの、そのためには、それによってもたらされる消費者へのリターンをきちんと描かねばならないとしました。

 以上4名の評価委員の話を受けて山田議員は、市場メカニズムでできることとできないことがあるとし、昨今の世界的な原油価格の高騰、欧米と比較し た際の日本の消費者の購買力低下、貧困層の増加などの中で、市場メカニズムが働きにくくなった日本の現状に危機感を示したうえで、戸別所得保障政策は市場 メカニズムを活用しつつ、それを補完するものであることを強調しました。


最後に、司会を務めた代表工藤が閉会の挨拶で「今日一番大きかったことは、民主党の4名の議員にこのフォーラムに来ていただき、率直な意見交換ができた ことだ」と述べました。そして、会場からのアンケート結果にも触れ、「民主党の説明にまだ納得できないという意見が多く見られたが、これは政策に対する関 心の大きさを反映したものだとも考えられる。今回のようなフォーラムは初めての試みだったが、これをきっかけに今後も各政党や議員との政策議論を継続させ ていきたい」とまとめました。


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